絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
そういえば――救急車で運ばれたあと、声をかけてくれた人がいた。
痛みで目を瞑っていたから誰かはわからなかったけれど。記憶から溢れ、鼓膜に蘇る声が、自然と一致する。
『君はバカか。いいか? 誰かのために、自分の命を犠牲にするな。君の命だって大事なんだ。でも、よく頑張った。助けるからな。傷跡は残さないようにしてやる。もう少しだけ我慢してくれ』
そうだ。あの言葉は、透夜がくれたものだった。
彼のおかげで、傷跡はうっすらとした線が見えるくらいで、ほとんど残っていない。
思い出したら、急に心臓がどきどきしはじめた。
あのときは、どうして怒鳴られなきゃいけなかったのだろうということばかりに支配されていた。彼はただ医者として美澄のことを案じてくれたからこそ、叱咤したのではないだろうか。
(私、ひょっとして、この人のこと、誤解していたのかな……)
それから――。
来客用のルームウエアを借り、セパレートの部屋に二組の布団を敷いた。
「柊くんをお風呂に入れられます?」
透夜に一応聞いてみたものの、柊は透夜と目が合った途端、イヤイヤと首を振った。
美澄はそうだ、と閃く。
テーブルに置いていた一冊の絵本を開き、くまのお父さんとこぐまが一緒にお風呂に入っているページを開いてみせた。泡がぶくぶくとふくらんで、親子楽しくがはしゃいでいるシーンだ。
「こんなふうに、おじさんと、あわあわぶくぶく、あそばない?」
「やぁ! みしゅ、いいの」
断固拒否。頭をぶるぶると震わせる。唇は固く引き結ばれてしまった。
「きっと、楽しいよ?」
「いや、あっち!」
手元にあった垂れ耳のふわふわした茶色いうさぎのぬいぐるみをぽんっと投げつけられた透夜は、こめかみあたりを押さえていた。すごい嫌われようだ。あれだけ横柄な彼が柊には勝てないところを見ると、噴きだして笑ってしまいたくなるのを美澄はぐっとこらえた。
「おまえに頼むしかないようだな」
やれやれと、透夜はだるそうに髪をかきあげた。
「お風呂で裸の付き合い大作戦……は失敗のようですね」
「おまえな。顔がにやけているぞ」
不満げに透夜が睨んでくる。
「だって」
美澄はこらえきれずくすくすと笑う。透夜はきまりわるそうな顔をしていた。柊は相変わらず美澄にべったりくっついて、透夜の様子を窺っているようだった。
痛みで目を瞑っていたから誰かはわからなかったけれど。記憶から溢れ、鼓膜に蘇る声が、自然と一致する。
『君はバカか。いいか? 誰かのために、自分の命を犠牲にするな。君の命だって大事なんだ。でも、よく頑張った。助けるからな。傷跡は残さないようにしてやる。もう少しだけ我慢してくれ』
そうだ。あの言葉は、透夜がくれたものだった。
彼のおかげで、傷跡はうっすらとした線が見えるくらいで、ほとんど残っていない。
思い出したら、急に心臓がどきどきしはじめた。
あのときは、どうして怒鳴られなきゃいけなかったのだろうということばかりに支配されていた。彼はただ医者として美澄のことを案じてくれたからこそ、叱咤したのではないだろうか。
(私、ひょっとして、この人のこと、誤解していたのかな……)
それから――。
来客用のルームウエアを借り、セパレートの部屋に二組の布団を敷いた。
「柊くんをお風呂に入れられます?」
透夜に一応聞いてみたものの、柊は透夜と目が合った途端、イヤイヤと首を振った。
美澄はそうだ、と閃く。
テーブルに置いていた一冊の絵本を開き、くまのお父さんとこぐまが一緒にお風呂に入っているページを開いてみせた。泡がぶくぶくとふくらんで、親子楽しくがはしゃいでいるシーンだ。
「こんなふうに、おじさんと、あわあわぶくぶく、あそばない?」
「やぁ! みしゅ、いいの」
断固拒否。頭をぶるぶると震わせる。唇は固く引き結ばれてしまった。
「きっと、楽しいよ?」
「いや、あっち!」
手元にあった垂れ耳のふわふわした茶色いうさぎのぬいぐるみをぽんっと投げつけられた透夜は、こめかみあたりを押さえていた。すごい嫌われようだ。あれだけ横柄な彼が柊には勝てないところを見ると、噴きだして笑ってしまいたくなるのを美澄はぐっとこらえた。
「おまえに頼むしかないようだな」
やれやれと、透夜はだるそうに髪をかきあげた。
「お風呂で裸の付き合い大作戦……は失敗のようですね」
「おまえな。顔がにやけているぞ」
不満げに透夜が睨んでくる。
「だって」
美澄はこらえきれずくすくすと笑う。透夜はきまりわるそうな顔をしていた。柊は相変わらず美澄にべったりくっついて、透夜の様子を窺っているようだった。