絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
「柊くんのきもちはよくわかったよ。でも、投げたらどうなる? いたいいたい。ぬいちゃんもかわいそうだよ。よしよししてあげようか」
 透夜がうさぎのぬいぐるみを前に出すと、柊はさっと受け取って美澄の方を見上げた。
「ごめんねって、いいこいいこしてあげて」
「よちよち、いこいこ」
 柊は素直な子なのだ。美澄がしたとおりに真似をする。
「おじさんに、どうぞしておいで」
 ごめんなさいと謝らせることも必要だが、泣かせてしまうといけないので、とりあえず柊の気持ちに寄り添うことにした。
 きっと嫌ってはいるけれど、嫌いなのではなくて、どうしていいかわからないのかもしれない。お医者様や男の人が怖いと思う子どもは大勢いる。
 美澄と並んだ柊は、おずおずと透夜にうさぎのぬいぐるみを差し出した。子どもなりに大きな勇気だ。
「よくできました」
 美澄はおおげさなくらい柊の頭をやさしく撫でる。すると柊はほっとしたように笑顔になった。
「しかしこのえらい違い。まるで魔法使いのようだな」
 感心したように透夜がつぶやく。
「じゃあ、一緒にぶくぶくあわあわしよっか」
「うん! しゅるー!」
 両手をばんざいして抱き着いてきた柊が可愛くて、美澄は頬を緩ませた。
 一方、羨ましそうに見ている透夜がかわいそうでもあり、ちょっとした優越感にも浸ってしまう。
「せめて着替えのパジャマと湯上り用の水でも用意しとく」
「ふふ。お願いしますね」
 お風呂から上がったあと、さっきのあわあわぶくぶくの絵本を読み聞かせていると、柊はすぐにうとうとしはじめた。奥の布団に連れていき、柊を寝かしつけている間、美澄は不意に透夜のことが気になった。
 振り返ると、驚くほどすぐ近くに彼の顔があって美澄は驚いた。
 さっきは少し離れたところから様子を見ていたはずなのに、いつの間にかもう一組の布団の上で横になったまま目を瞑っていたのだ。
 激務の合間の休日だというのにお見合いや苦手な子どもの相手をすることになって、寝室に行く気力もないくらい、疲れてしまったのかもしれない。それに、柊が布団に入ったことでとりあえず安心したのだろう。
「……寝ちゃってる」
 寝顔は邪気みたいなものがほどよく和らいで、子どもみたいにあどけない。
 美澄はぷっと笑った。
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