絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
 美澄には両親がいない。写真でしか顔を見ることはできない。小学生になる前のことはほとんど覚えていない。仕方ないことだけれど、やっぱりふと寂しくなることがあって、親の愛を知りたいと渇望したこともある。
 だからか、自分に置き換えて子どもを守りたいという気持ちが大きいのかもしれない。
(私、やっぱり保育士続けた方がいいのかな……)
 あれこれ想い馳せているうちに美澄自身にも眠気が差し込んできた時だった。いきなり後ろから抱き締められ、美澄はハッとする。
「ちょ、何もしないって言いましたよね!」
 ホールドされて身動きがとれないことにパニックになってもがいた。しかし抱きつかれただけで、その先に何かをしようというわけではないらしい。
 美澄が動きを止めると、すうすうと寝息が聞こえてきたのだ。どうやら彼は寝ぼけているらしい。
(な、なーんだ……紛らわしい!)
 どっどっと心臓が激しく動揺していた。
「どうするの、これ……」
 広い胸にすっぽりと閉じ込められ、搦められた腕は重たく、簡単には振りほどくことができない。時々軽く腕が締まったりして、首の後ろにかかる吐息がくすぐったい。すっかり抱き枕代わりだ。
 彼が寝返りを打つタイミングが来るまでは諦めて、されるがままに身を預けていると、背中越しに規則正しい心臓の音が伝わってくる。だんだんと彼の体温がうつってぽかぽかしてくる。
(あったかい……)
 保育園の子どもたち以外に、こんなふうに人肌を感じたことなんてもう何年もない。恋人は学生時代にはいたけれど、保育士になってからは日々の忙しさに流され、出逢いに恵まれたことはなかった。
 不意に、透夜の節くれだった手が視界に映り込み、美澄はつい観察してしまう。
(男の人ってやっぱり大きいんだな……)
 この手は、たくさんの人を救ってきた大事な手だ。そしてこれからもたくさんの人を救っていく医師の手……そういう歴史や覚悟を感じさせる、生命力に満ちている。
 それが急にとてもかっこよく思えて、ドキドキと鼓動が速くなっていく。
 いやいや。自分勝手な彼に振り回されているのに。
 さっそく絆されている場合か。
 いっそのこと免疫を高めておくとか。
 美澄は悶々と考えながら美澄は加速する鼓動に鎮まれと念じる。
(川の字になって親子みたい……私が小さな頃も、家族ってこんな感じだったのかな)
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