絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
「話の腰を折らないで。何なんですか。まるで診察するみたいに。もしかして、東雲先生は、クールアンドドライな成りをして、実はものすごくウエットなタイプですか? ちょっと一緒にいたくらいで、情に流されましたか?」
 美澄はなんとか勢いで負けるまいとするのだが、透夜はちっとも表情を崩さない。言葉の勢いに呑まれる様子はなかった。
「おまえは俺を誤解しているだろ」
「さては、誤解させるようなことをしている自覚ありませんね?」
 言い合いに飽きたらしい、透夜はため息をついた。しかしそれから彼は手を変えたらしい。美澄の腕を掴んで、真顔で迫ってきた。
「ちょっ……」
「本心だよ。嫌いじゃないんだ。おまえのような女。はっきり物を言うし、自分の意志がある。素直で裏表がない。子どもに好かれやすいのもわかる。あと、飯がうまい。それから――」
「わーいいです。もうやめてください。じんましんでそう」
 急に褒められると、むずがゆくてしかたない。
 絆されたらだめだ。そもそも! 絶対にこの人は好きにならないと思った人なのに。
 耳を塞ぎたくなってしまった美澄を尻目に、透夜は話を続けた。
「……それから、ちょっとやそっとじゃめげなそうだし、長生きしそうだ。俺は医者だからどうしても見送ることの方が多い。結婚相手には自分より長生きしてほしい」
 透夜の実感の伴った表情に、美澄はどきりとした。
 だからこそ、美澄はすんなり返事ができなかった。
「長生きできるかどうかはさておき。言っておきますけど、嫌いじゃないだなんて、口説き文句になりませんよ」
 悔しかったので、美澄はそう言い返す。
「今すぐ、好きだと、言ってほしいのか」
 透夜は真剣な表情で言い募る。
(これがこの男の素?)
 心臓がびっくりして止まりそうになったらどうしてくれるのだろうか。彼ならもちろん助けてくれるだろう。いや、そういうことじゃなくて!
 これは、本格的に口説かれているのだろうか。しかしここで気圧されるわけにはいかない。
「そ、それは、そうですよ。嫌いじゃないから結婚するっていうなら、誰だっていいってことになりますよ。好きと嫌いじゃ大違いでしょう。だいたい――」
「好きだ」
「……っ!」
 真顔で言われた言葉のその破壊力といったらない。美澄は息が止まりそうになった。それこそ、寿命が百年縮んだかもしれない。
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