絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
 本当に好きって言った――。
 しかし透夜は不服そうだった。
「言葉だけならいくらでもいえる。だが、おまえが求めているのはそれじゃないんだろ」
 正論を返され、美澄はドキドキしながら、なんとか次の一手を考える。
「まず、私には、断る権利がありますよね?」
 冷静になるために、一旦時間を巻き戻すことにした。
「だから、契約結婚を提案したんだ。俺はおまえを気に入っている。だけど、おまえは俺のことが好きじゃない。もたもたしているうちに他の男に横から奪われたらたまらないから、売約済としておきたい。それに、これ以上、無駄な縁談を引き受けなくて済む。婚姻届は記入しておくが、お互いが納得するまで出さない。互いにルールを決め……一年以内にお互いが好きにならなかったら契約は解除……というのはどうだ」
「要するに、お試しの偽装結婚ということですね?」
 同棲してずるずる付き合いを続けるのとは違って、方向性がきっぱりさっぱりしている。お互いが結婚という枠の中にいて、お互いを好きになれるかどうか、このまま結婚していいと思えるかどうか、試す権利。制度としては悪くはないかもしれない。
「けれど、それって私にメリットってありますか? それに、東雲先生なら、プロの家政婦さんやシッターさんを雇うのなんてわけないでしょうし。私よりもずっと頼りになるかと思うんですが……」
 押し問答に疲れたらしい。やれやれと、透夜はため息をつく。
「おまえと話をしていると堂々巡りになる。一問ずつ質問には答えるとしようか。まず、家政婦がみな信用できるとは限らない」
「私のことだってそんな簡単に信用しない方がいいんじゃないですか」
「一応は、お互いに身元がはっきりしている。何かあれば八重さんが黙ってはいないだろう。八重さんと親しい親父の方もな」
「あなたの方は大丈夫なんですか。跡取り息子なのに、何か問題が起きませんか? へんなことに巻き込まれるのは困りますよ」
「大丈夫だ。病院のことと、俺の結婚は別に関係がない。医者の息子にどういうイメージを抱いているかはわからないが、病院を継ぐとは決めていない。姉貴を見ていたらわかるだろう? 家庭では放任主義、仕事では実力主義だ。恩を感じてはいるが、俺のやることに口を出させるつもりはない。他に何か聞きたいことは?」
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