絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
「い、いいですよ。そこまでしてもらわなくて! 何もないうちから形にするのはどうかと思います。それは、ちゃんと正式に結婚したいってお互いの気持ちが向いたら、そのときに考えましょう」
「たしかに。それもそうだな」
 すぐに解放してもらえたので、美澄はホッと胸を撫で下ろす。
「じゃあ……」
 と、今度こそ別れを告げようとしたのだが。
「そういうことで、来週にも引っ越し業者に手配しておく。それまで片付けしておけよ」
 透夜がそう言い出したので、美澄は目を丸くする。
「ええ!? 来週ですか?」
 何もかもいきなりすぎる!
「何か不都合でも? アパートから職場に通うわけでもなければ、一人暮らしの持ち物なんかたかが知れてるだろ」
 暴論だ。彼はやっぱりお坊ちゃまなのだろうか。庶民の生活をなんだと思っているのか。
「私の心の準備の方が問題です。こっちは、今日色んなことがありすぎていっぱいいっぱいなのに」
「なら、問題ないな。予定空けておく」
「ちょ、聞いてます? 問題ありですってば」
「往生際が悪い」
「あなたって、本当……」
 美澄が項垂れている間にも、三月二十七日、日曜日……スマホのスケジュール画面を開き、透夜は勝手に話を進めてしまう。
 それから、彼にアパートまで送ってもらい、やっとひとりになった美澄は、一週間後には出て行かなくてはならない部屋の中を見渡し、よろよろとソファに座り込んだ。
「はぁ。疲れた……もうこのまま化石になりたい」
 スマホの通知が点滅している。八重からだった。
 しかし今は返す気にはなれなかった。
(契約結婚か……周りの人には、本当に結婚したように振舞うっていうことでしょ)
 お互いに結婚したいと思うようになる日が、来るのだろうか。わからないけれど、これもひとつの運命の形かもしれない。試してみるのは悪くないかもしれない。
 永久就職をとるか、保育士に戻るか、それとも……。
 これがターニングポイントであることには違いないのだ。




■節タイトル
3 波乱含みの契約結婚
■本文
 引っ越し当日――。
 アパートから運び出したものは、必要最低限のものに留め、ソファやベッドなどの古い家具は処分し、掃除機やトースターまだ使えそうな電化製品はリサイクルに出した。
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