絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
だいたい衣類や食器や書類を詰め込んでダンボール六、七箱くらいだろうか。立派なトラックに運んでもらうのが申し訳ないくらいの身軽さだ。
午後二時頃、引っ越し先のタワーマンションに着いたとき、気さくな業者の若いお兄ちゃんが「大出世ですか。お金持ちとご結婚ですか」と茶化してきたので、美澄は「宝くじがあたったんですよ、実は。内緒にしてくださいね。ははは」と冗談で流した。
実際、高級マンションに住める上に、家賃や光熱費の負担は一切要らないなんてラッキーだ。宝くじが当選するよりも奇跡なのではないかと思う。あの口の悪い外科医本人を除けば。
ダンボールの開梱と片付けを済ませたあと、美澄はダイニングテーブルに透夜と向かい合い、これから一緒に暮らす上で大事なルールを話し合った。
手元には証拠として必要になるレコーダー、パソコン、書類などが置かれてあり、なんだか妙に物々しい。しかし特別な私情に第三者を交えるわけにはいかないため、透夜側の最大限の気遣いなのだろう。
「さて、何か希望があれば、色々言ってくれ。内容をまとめよう。とりあえず、こちらから提示できるのはこんなもんか」
透夜はパソコンの画面を美澄の方へ向けた。文書にはこう書かれてあった。
『東雲透夜(以下「甲」という。)と真下美澄(以下「乙」という。)は、以下のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。家賃や光熱費そして生活を維持するための費用はすべて甲が負担すること。家事全般は乙が担当すること。乙の家庭内労働に対する対価と、その他に必要な費用の申告があった際、契約を解除するまでの間、甲がすべて支払うこととする――』
「え? たったこれだけですか?」
「俺は他に文句がないからな。おまえが気になることがあれば、何でも言えばいい」
「他人と生活するわけですから、あとあと問題にならないように、ちゃんと話をしておいた方がいいですよ。たとえば――」
美澄はパソコンを拝借し、エクセルの画面を立ち上げ、時間割のテンプレートを開いた。
お互いの起床時間や帰宅時間などのタイムスケジュールを把握して円グラフにする。
それからプロフィール一覧を作成し、してほしいとこととしてほしくないことの共有。アレルギーや持病の有無、食の好み等々、空白を埋めていった。
「いわゆるこれは、『夫婦のカルテ』というやつです」
午後二時頃、引っ越し先のタワーマンションに着いたとき、気さくな業者の若いお兄ちゃんが「大出世ですか。お金持ちとご結婚ですか」と茶化してきたので、美澄は「宝くじがあたったんですよ、実は。内緒にしてくださいね。ははは」と冗談で流した。
実際、高級マンションに住める上に、家賃や光熱費の負担は一切要らないなんてラッキーだ。宝くじが当選するよりも奇跡なのではないかと思う。あの口の悪い外科医本人を除けば。
ダンボールの開梱と片付けを済ませたあと、美澄はダイニングテーブルに透夜と向かい合い、これから一緒に暮らす上で大事なルールを話し合った。
手元には証拠として必要になるレコーダー、パソコン、書類などが置かれてあり、なんだか妙に物々しい。しかし特別な私情に第三者を交えるわけにはいかないため、透夜側の最大限の気遣いなのだろう。
「さて、何か希望があれば、色々言ってくれ。内容をまとめよう。とりあえず、こちらから提示できるのはこんなもんか」
透夜はパソコンの画面を美澄の方へ向けた。文書にはこう書かれてあった。
『東雲透夜(以下「甲」という。)と真下美澄(以下「乙」という。)は、以下のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。家賃や光熱費そして生活を維持するための費用はすべて甲が負担すること。家事全般は乙が担当すること。乙の家庭内労働に対する対価と、その他に必要な費用の申告があった際、契約を解除するまでの間、甲がすべて支払うこととする――』
「え? たったこれだけですか?」
「俺は他に文句がないからな。おまえが気になることがあれば、何でも言えばいい」
「他人と生活するわけですから、あとあと問題にならないように、ちゃんと話をしておいた方がいいですよ。たとえば――」
美澄はパソコンを拝借し、エクセルの画面を立ち上げ、時間割のテンプレートを開いた。
お互いの起床時間や帰宅時間などのタイムスケジュールを把握して円グラフにする。
それからプロフィール一覧を作成し、してほしいとこととしてほしくないことの共有。アレルギーや持病の有無、食の好み等々、空白を埋めていった。
「いわゆるこれは、『夫婦のカルテ』というやつです」