絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
「そう硬くなるな。美澄」
「……!」
 急に呼びかけられて、美澄は弾かれたように彼を見る。
「便宜上のことだ。名前を呼ばなかったら不自然だろ」
「透夜、さん。これでいいですか?」
「ああ。そのうち慣れてくれ」
 そういう彼も少しこそばゆいような顔をしている。
 お互い様と美澄は思うことにした。
 その他、細かい部分は一緒に暮らしはじめてから色々出てくるだろうからその都度相談し合うということになり、お開きになったのだけれど。
 透夜のスマホがテーブルの上で震える。画面には東雲総合病院と表示されてあった。
「――わかった。すぐに行く。準備していてくれ」
「呼び出しですか?」
「ああ。初日から悪いな。何時に戻れるかはわからないから、適当にしていてくれ」
 透夜はそばにあったジャケットを掴み、玄関へと急ぐ。
「わかりました。えっと……いってらっしゃい」
 とりあえず見送るべきかと思い、美澄は玄関先で手を振ってみた。
 すると透夜が突然固まったので、美澄は慌てふためく。
「もしかして、これはやらない方がいいですか? さっきのリストにはありませんでしたが」
「いや、行ってくる」
 透夜は何かを言及するわけではなく行ってしまった。
(何も言われないのも、それはそれで……はずかしい)
 美澄は宙を掻いた手を胸のあたりに収めると、じわりと頬に熱を感じ、しばらく心の中でじたばた悶絶する。
「何これ、すごく……むずむずする……っ」
 それから――ひとりになった美澄は、夕飯の時間まで新居の中をうろうろし、片づけをしてみたり電化製品をいじってみたり、献立を考えたりして過ごした。
『夫婦のカルテ』を確認し、美澄はうんうんと頷く。
 透夜に好き嫌いはないようだ。
(料理を作るのに、好き嫌いがないのはありがたいよね……)
 不意に、誕生日の欄に目を止まった。
「へえ、透夜さんってクリスマス生まれなんだ……」
 婚姻届を記入するときにも生年月日の欄はあったけれど、あのときは必死だったから気にしていなかった。思わず子どもたちのために変身したサンタクロースの姿を想像してみたが、似合わない……と、美澄は頭を振った。
 結局、透夜が戻ってきたのは午後九時過ぎ。美澄がお風呂から上がる頃にばったりと顔を合わせた。
「あ、おかえりなさい。夕飯、あたためなおしましょうか?」
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