絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
「別に。ただ、弁当は悪かったが、わざわざ届けなくてもよかったんだ」
 やはり不満だったらしい。
 結婚してほしいと言ったのはそちらなのに。見えるところにはいてほしくないとか、勝手すぎない? けど、勝手に押しかけてきたのも悪かったかもしれないし。
 悶々としながらも美澄はなんとか呑み込んだ。ここで揉めても仕方ないし、今は不戦敗でも仕方ない。
「……わかりました。今度は忘れていってもそのまま私の胃袋におさめておきます。じゃあ、私はこれで!」
 踵を返そうとすると、いきなり二の腕を捕まれた。
「待て、勘違いするな。おまえが怒り出してどうするんだ」
 そう言う透夜の手に少しだけ力が込められた。
「怒っていません。ただ、余計なことをしたことはわかっていますし、これは……拗ねているだけですよ」
「拗ね……ああ、そういうことか」
 透夜は美澄の腕を掴んだ手を離し、ふっと小さく噴き出す。目元は完全に緩んでいる。
「な、なんで笑うんですか」
「おまえは、やっぱり素直でいい。元気すぎるくらい、そういうところは好ましい」
「そ、それはどうも」
 透夜の言葉は、美澄の気持ちを軽くする。余計なことではなかったみたいだ。彼を心配していた気持ちもちょっとでいいから伝わるといい。
「おまえ、昼はどうした」
「これからですよ」
「せっかくだ。一緒に食べるか」
 歩みよってくれたことを嬉しく思いつつ、美澄は首を横に振った。
「先生がちゃんと食べてください。私のことはお気になさらず。私は家に帰ったらゆっくり味わうので。今は見守る係に徹します」
「なら、遠慮なくいただこうか」
 弁当箱を開きながら、透夜は小さくため息をついた。
「しばらく騒がしくなるな」
 そう言い、彼はたまごやきを箸で摘まんだ。
「何がですか?」
「奥様の登場でな。視覚化されれば、意識しないわけにはいかないだろう」
 透夜が仏頂面を浮べていた理由は、どうやらからかわれるのがいやだったかららしい。美澄はようやく納得し、ふふっと笑った。
「あぁ。奥様とか奥さんとか、なんだかくすぐったいですね。苗字が変わったわけではないし、誰かに呼ばれるのは名前だから……ひょっとして、それで照れてたんですか~?」
「……にやけるな。ますますバカっぽく見えるぞ」
 呆れたような顔をして、透夜は箸を進める。彼は黙々とアスパラのベーコン巻きを食べていた。
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