絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
 なぜなら、当直の日やオペが重なっている日は病院に寝泊りすることがあるし、研修や学会の参加などで移動するときは現地のホテルに宿泊し、マンションの部屋に戻らないこともあるからだ。
 だから、せめて一緒に過ごせるときは、食べたいものを作れるようにメッセージに候補のレシピを送ってリクエストを聞いた。それがお互いのコミュニケーションにもなっていた。
 手探りだけれど、少しずつ、互いに寄り添っていっている感触は、美澄にはとても新鮮だった。
(なんていうのかな……夫を攻略している、みたいな感じ?)
 実際、攻略されているのは、自分の方かもしれないけれど。
 そんなある日のこと――。
「どうです? お気に召しましたか?」
「……ああ、うまい」
 その言葉が聞けた美澄は、喜色満面だった。相変わらず、手料理を美味しそうに食べてくれるのが嬉しい。彼はめったにお世辞を言う人ではないから、本心はすぐに表情でわかる。
「よかった。やっぱり一緒に食事をして、おいしいって言ってもらえるのはいいですね」
 なにしろ今日は三日ぶりに顔を合わせたのだ。
 透夜は午後に帰ってきていて明日は休みだという。夕飯時にはこうして食卓を囲めることになった。
 目の前に透夜がいることが、美澄は自分が思っていた以上に嬉しかった。心のどこかで、彼の不在を寂しく感じていたのかもしれない。
 仮初の夫婦をはじめてから進化したこの気持ちを、なんとたとえられるだろう。
(同志……みたいな? ちょっと違うか)
 もうとっくにただの知り合いではないし、友達ではないし、上司でもないし、先輩でもないし。結局のところ、ふたりは仮初の夫婦としか表現できない。
(契約結婚なんだし、あたりまえだけど、仮初ってなんか寂しい関係よね……)
 偽装しているということも、なんだか気持ち的に引っかかる。本物の夫婦ではないけれど、こうして過ごしていく中で、培われていく気持ちは、偽りではないのだから。
 悶々と考えていたら、透夜がこちらをじいっと見ていた。
「なんですか? おかわり?」
 首を傾げて、美澄は手を伸ばそうとする。
「いや。単純だなと思ったんだ。今夜、おまえ妙にうきうきしてるだろ」
 透夜がからかうように言う。
「単純なのはいいことですよ。幸せを感じやすいっていうことですから」
 美澄はいつものように開き直って、笑顔を咲かせた。
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