絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
 美澄はうなされている透夜の両手をそっと包むように握った。
『大丈夫、大丈夫……何も怖いことなんてない。だいじょうぶよ』
 美澄は保育士だった頃にお昼寝で寝付けない子をあやしていたように、透夜の手を握ったまま囁きかけた。
 やがて彼の呼吸はだんだんと落ち着いていき、すうっと寝息が聞こえてきた。
 ほっとして、美澄も目を瞑った。
 もしもだけれど、何か辛い経験をしたり、そのことで独り抱えていることがあるのだとしたら、伝えてあげたい。
『あなたはもう一人じゃないんですよ』
 うとうとしながら美澄は囁いた。握った手のあたたかさに癒され、そのまま睡魔に誘われて朝を迎えた。透夜が隣にいなかったのでリビングに顔を出すと、彼はいつもどおり爽やかな顔をしてコーヒーを注いでいた。
(無意識なのかな……)
 とくに雨の日にうなされていることが多い気がする。ここ一週間は雨の日が多く、あまり眠れていないらしい彼が職場でどうしているか気になったのだ。
 そのことが気がかりで、契約結婚について今後のことを話せないままでいた。
(仮眠はとってるのかな……)
 透夜は美澄にその件について何も言わない。心配させたくないのか、黙っていたいのか。いずれにせよ、お医者様は身体が資本なのだ。何か助けになることがあれば力になりたいと美澄は思う。
 お見舞いに訪れる人たちの波に紛れ、産婦人科のあたりを通りすぎて外科病棟へと行こうとしていたところ、ある人に見つかった。
「おや。今日も愛妻弁当のお届けかな?」
 にこやかに話しかけてきたその人は、服部だった。
「こ、こんにちは。服部先生」
 手ぶらで来ていることを知られまいとなんとか取り繕おうとする美澄に、服部は首をかしげる。そして彼は目敏くも気付いたらしい。
「はーん。さては、愛しの旦那様に会いたくなっちゃった? それとも、浮気調査とか?」
 からかうような目を向けられると、意識したくなくても勝手に顔が熱を持ってしまう。
「ま、まさか。ちょっと気になって来てみただけです。しばらく寝不足のようだったので」
 当たり障りのない返答をしたつもりだったが、服部の方が一枚上手だった。
「ほんっと、愛されてるねえ。うらやましい。寝不足の原因が奥さんっていうことはない?」
 美澄の顔は完全に真っ赤になってしまった。
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