絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
 美澄の頭が真っ白に染まりかけたとき、
「彼女のことは、そう簡単に忘れられる相手じゃないから」
 服部のその言葉が、無慈悲に美澄の心を抉った。
(忘れられない女性がいたから……だから、なの?)
 認めたくはない。けれど、そうだとしたら、今までのことが、すべて腑に落ちるのだ。
 お互い好きにならなかったら、契約は解消する――という選択肢が脳内にちらつく。
 美澄が透夜の忘れらない女性の話を知ってしまったことが彼に伝わったら、これからのふたりの関係はどうなってしまうのだろう。
 せっかく、想いを交わし合ったと思ったのに。透夜にとっては、彼女を忘れたいがための身代わりだったということなのだろうか。
 喉の奥が渇いていく。不安がせり上がってきて鼓動が早鐘を打つ。どうしようもなく心細さを感じて、胸のあたりがひりひりしてきた。
(信じたくない……だって、あんなに、大事にしてくれたのに)
 これからふたりは変わっていけるのかもしれない。そんな甘い期待を抱いていた。
 でも、透夜はまだ、忘れていないのかもしれない? 
 不眠の理由も何か関係しているということ? 
 どんどん気になりはじめる。
 けれど、知れば知るほど、知りたくない事実が明かされそうで怖い。それなら、知らないでいた方がずっといい。
 美澄は震える手を落ち着かせるように、冷たいグラスを握る。
「私、透夜さんが、話してくれるのを待ちます」
 そう。透夜から直接聞いた話ではない。
 真実かどうかなんてわからない。美澄は自分自身にどうにか納得させようとする。
 しかし。
「君に話すわけがないよ。あいつはそういうやつだ」
 険しい表情を浮べ、服部はため息をつく。その表情には友を慮るような色が見えた。
「服部さんは、本当に事情を知っているんですか?」
「ああ、全部知っているよ。僕がこの目で見てきたことだから」
 決定的ともいうその言葉を聞いて、美澄は俯き、唇をぎゅっと噛んだ。
「どうする? あいつは聞いても答えない。君に知られたくないことだから今までだって隠していたんだろう。きっとはぐらかすだろうね。だから……君が知っておきたいっていうなら、僕が全部教えるよ?」
 空いていた方の手を服部にいきなり握られて、美澄はびくりと肩を震わせる。
「ごめん。驚いたよね。手、震えてるから」
「いえ。大丈夫ですから、手を、離してください」
< 67 / 117 >

この作品をシェア

pagetop