絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
 しかし服部の挑発は止まらない。彼はとうとう核心をついてきた。
「そんなに美澄ちゃんのことが大事なら、本気で向き合えよ。形だけじゃなく、ちゃんと結婚すればいいじゃない」
「なんで――」
 透夜は表情を硬くし、美澄の方を気にした。
 美澄もまた固まってしまう。
 だめ、終わってしまう。それ以上は言わないで。こっちを見ないで。
「ああ、言っておくけど、彼女が漏らしたわけじゃないよ。傍から見てればわかるんだ。それくらい、ね」
「こっちにはこっちの事情があるんだ。むやみに他には言いふらすなよ」
「ああ、もちろん。院長には黙っておくよ。相思相愛でよかったね」
 にこりと、服部が微笑む。その視線を受け止めた美澄はピンときた。
 服部は透夜を挑発するようなことをしかけた。けれど、二人の仲を壊す目的ではなく、わざとなのだ。透夜の想いを試すためだ。
(でも、透夜さんは、もうその人のことはいいの……?)
「本当に部屋についてきたらどうしようかと思ったけど。まあ、愛想尽かしたらいつでも僕のところにおいでよ」
「ありえないから心配するな」
 透夜はきっぱりと言った。その言葉を、美澄は信じたいと思った。
 けれど、彼の話を聞かないことには、この先の関係を続けることはできない。知ってしまったからには、見て見ぬふりをすることはもうできない。
 レストランの外に連れ出されたあと、透夜はきまりわるそうに髪をかきあげた。
「このまま家に送っていく。俺は、病院に戻らないとなんないからな」
 タクシーはすぐに捕まり、二人はマンションへと向かう。さっき服部に言われたことが頭の中でぐるぐる回って気分が悪くなりそうだった。
 なんて切り出したらいいか、美澄は悩んでいた。
 車の中ではお互いに何も喋らなかった。何をしゃべったらいいかわからなかったといった方が正しいかもしれない。
 透夜が必要時以外無口なのはいつもの通りだったが、美澄はすっかり落ち込んでいた。
「美澄、着いた」
 透夜に声をかけられ、美澄は彼に続いてタクシーを降りた。マンションの部屋に行けば、ふたりの日々が続いていく。あたりまえのように、契約結婚が――。
(契約結婚……って、結局は、透夜さんが、忘れるために必要なお試しだったっていうこと?)
 一度胸に抱いたモヤモヤは時間の経過と共に大きくなるばかりで、このままなかったことになんてできそうにない。
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