絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
「最初は、そうかもしれないな。彼女にどこか似ているおまえを助けることで、救えなかった過去の贖罪になるような気がしていた。医者として大切な人を救えなかった過去の無力感を忘れられるかもしれないと思ったんだ。こういう俺の身勝手さでおまえを傷つけてしまっていたのなら謝る……申し訳ない」
 透夜がそう言い、目を伏せる。
 彼を苦しめたいわけじゃなかったのに、掘り起こしてしまったことがいたたまれない。その一方、そんなことを言われたら、彼の記憶の中の彼女に対抗することなんて到底できないと美澄は萎縮する。想いの深さが違うことを、まざまざと見せつけられ、自分の不甲斐なさに悲しくもなってくる。
「言い訳になるかもしれないが、一緒にいるうちに、おまえは彼女とは全然違うことに気付いた。その違いこそが俺にとっては新鮮で、ひとつひとつが愛しくも感じられて、いつの間にか目が離せなくなっていた。おまえとだったら恋愛がしてみたいと思った。一緒にいることに居心地の良さを見出していた。その気持ちは本当だ」
 まっすぐにこちらを見つめる透夜の表情を見て、どう受け止めていいかわからなくて、美澄は喉のあたりまでせり上がってくる痛みを必死にこらえていた。彼を責めてしまいたくない。嫌な言葉を言ってしまいたくない。一緒にいたいと思ってくれていることを信じたい。でも、それほどまでに深い想いを知らされたあとで、すんなり受け止めていいものだろうか。そんな迷いも生じる。
「……なんて言ったらいいかわかりません。子どもが苦手なのも、その件があるからなんですね。全部……彼女に関わることだったんですね」
 いつの間にか、視界が揺らいでいた。
「美澄……」
 透夜は美澄の目尻に流れていく涙を指で拭う。
「そういうときだけ、やさしいんですね。ううん。あなたは本当はやさしい人……私わかったんです。私が怪我をしたときに叱ってくれたのも、本気で心配してくれたんだっていうこと。東雲透夜っていう医者はそういう人なんですね。もう誰もできるなら死なせたくないと思った。そして今も、苦しんでる。私を見て思い出してしまうなら、私の存在は何なんでしょう」
 透夜は何も言えずに悲しげに微笑むだけだった。そんな表情をさせてしまったことに、美澄はまた傷つく。
< 72 / 117 >

この作品をシェア

pagetop