絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
 夜、眠れないのも、そのせい。彼は、ずっと後悔している。彼女に何もできなかったことをずっと忘れられないと思っている。
 たとえ恋仲じゃなかったとはいえ、大切な人には変わりないのだ。彼女を超えることなんて、ちょっとやそっとじゃいかないことを示しているのではないか。
 彼の心を奪ったまま逝ってしまった彼女に、勝てるはずがない。まして彼はずっと覚えていて、これからもほんの拍子に重ねて見てしまうこともあるかもしれない。それは、お互いがとても辛いことなのではないだろうか。
 しかし透夜は言い訳だけはしなかった。
「すぐに理解を示そうとしないでいい」
「今はただ、混乱しています」
「無理もないだろう。すまなかった」
 彼は瞳を逸らさない。懺悔をいとわない。
 きっと美澄が彼を責めても受け止める覚悟をしている。
 別れてほしいと美澄が一言いえば、透夜は頷いてしまうことだろう。
 ちょっと前なら、そうしてしまえば済む話だった。でも、今は簡単に別れを告げられない。
 本当の彼を知ったつもりになって嬉しくて、お互いに寄り添って、いつかは本当の夫婦になれたら……という夢を見はじめていた。
 もうとっくに彼に恋をしているから。
「私、しばらく頭を冷やしてきます。今夜はどこか別のところにでも――」
「待て。その必要はないし、大体、おまえには行くところがないだろう?」
 透夜は労わるように言った。
「それは……」
 八重のことや叔母のことが思い浮かんだ。急に帰ったらびっくりするかもしれない。それに、透夜とは結婚したことになっているのだ。今、ふたりのことを聞かれてもうまく説明できる自信がない。
 透夜が美澄の頭をぽんと軽く撫でる。
「今夜は当直だし、しばらく病院に泊まる。おまえはうちにいればいい」
 こういうときに優しいから、ますます胸が苦しくなるっていうことを、彼はきっと知らない。時々、やさしさが残酷だということを、彼はまるで気付けていない。そういう気遣いが彼の傲慢さだということも。


     ***


 透夜と別れてから、美澄はベッドに倒れ込んで、枕を抱きしめたまま突っ伏した。
「はぁ。なんで私……巻き込まれて、契約結婚なんかして、こんなに好きになっちゃってるんだろう。透夜さんのバカ、バカ……」
 胸にため込んでおくのが辛くなってきて、美澄は思わず声を荒らげる。
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