絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
 片足を突っ込んだくらいで引き返していたらよかったのに。身も心も彼に捧げてしまったあとでは、もう元のようには戻れるわけがないのだ。
 絶望に臥せってから、美澄はなんとか自分を奮い立たせる。
 いや、まだ、大丈夫。本当に結婚してしまう前に気付けてよかったのではないか。
 荷が重すぎる。そんな辛い過去を一緒に背負う覚悟なんて、そう簡単にはできない。
(だいたい、恋仲だったわけじゃないとはいっていたけど、昔は好きだったとかじゃないのかな)
 沸々と小さな嫉妬が胸を占めていく。その一方、彼を信じたいという気持ちも芽生える。
 透夜が嘘をついているようには見えなかった。彼はごまかさなかった。だったら、過去は過去と受け止め、透夜と一緒にこれから幸せになればいいのではないか。
 でも、それでも透夜が彼女を忘れられなかったら? やっぱり離婚してほしいと言われるのが落ちではないのか。そうなってからでは遅い。
 服部が言っていたようにこれ以上深入りしてからではより傷つくだけだ。だったら、そうなる前に手を引くべきではないだろうか。幸い、二人はまだ契約結婚という状況なのだから。
 ぐるぐる考えた。前進しては後退し、吐くくらい考えた。それでも結論は出ない。
(私は、どうしたいの)
 冷たいベッドに一人でいると泣きたくなってくる。透夜の温もりが恋しかった。
(だめだよ、私……もう、無理だよ)
 もうとっくに深入りしてしまっていることに気付いてしまったから。
 ――いつの間にか朝を迎えていた。
 けれど、ベッドから起き上がる気力がなくて、その日はだらだら過ごしていた。
 翌日、雨音で目を覚ました。気だるい身体を起こし、なんとかシャワーを浴びてみる。けれど、リビングに移動したあとも、ソファに座ったまま何もする気になれない。
 外は雨が降り続けている。いつまでも彼女の気分は鬱々として晴れない。この空のように――。
 三日ほどその繰り返しをしてみたところで、美澄は我に返った。
「うぁーだめだめ。こんなふうに腐ってるの、私らしくもない」
 掃除、洗濯、料理。規則正しい生活!
 でも、誰のために頑張っていたのだろう。
 好きになるかどうかなんてわからなかったのはお互い様だ。好きになってもらえるように努力をすればいい話。
「しょうがないよ。だって、好きになっちゃったんだもん」
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