絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
「彼女のことは恋愛関係とかじゃなかったのよ。ただ、ほんとうに透夜を慕っていた子だったから、彼女が亡くなったとき、透夜はものすごくショックを受けていた」
「はい。聞きました」
「……雨の降る前は、今でも、不眠になりやすいらしい。当時は、医者をやめたいって言い出したくらいだったから、相当にね……絶望していたと思う」
 服部が困ったように言い、コーヒーカップに口をつけた。
「それだけ大きな存在だったっていうことですね」
 美澄の肩にどんどん荷物が乗せられていく。しかし耳を塞ぐのは簡単でも、知らないままではいられない段階にきているのだ。なんとかぐっとこらえて彼らの話に耳を傾けていたのだが。
「だから、結婚したって聞いたときは、本当に寝耳に水だったんだ、去年、いきなりひとめぼれをした相手だとかなんとか言って――」
 服部の話の途中で、美澄は顔を上げた。
「え? ひとめぼれ?」
 疑問符が大量に頭に浮かんだところで、薫子が思わずといったふうに服部の膝の上を叩く。
「ちょっと。服部が口を挟むと、混乱するから黙っててちょうだい」
「はいはい。でもほんとだからね、美澄ちゃん」
「ひとめぼれってどういう」
 美澄の方が寝耳に水だった。そんなこと透夜の口から一度も聞いたことがない。
「私から説明するわ」と薫子が話を続けた。
「去年のクリスマス間近の時だったわ。柊の予防接種で病院に顔を出したとき、透夜がなんか面白い患者が運ばれてきたっていうのよ。話を聞けば、子どもをかばって怪我をしたんだけれど、けっこうひどい具合だったのに自分のことを顧みない、やたら元気な子がいるって」
 あの怪我をした日のことを、美澄は再び思い出していた。
「透夜はあの通りそっけない感じだけど、実際は心配で気になったらしくて、しばらく様子を見守っていたんですって。そしたら、少しもじっとしていないし……挙句の果てに、迷い込んだ小児科病棟の子どもたちの前で朗読劇をしていたとか。続々と子どもたちが集まる中、遊んであげたりとか」
「あ、はは。そんなこともあったかな」
 美澄は思い出したら恥ずかしくなってきた。じっとしていられないのは性分というか、一種の職業病だったかもしれない。
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