絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
 唇を強奪されて美澄は呆気にとられたというか、透夜の甘やかすような表情にドキッとし、あっけなく戦意喪失した。
「もう、透夜さん?」
 せめて軽く睨みつけてみるものの、
「おまえは笑っていた方がかわいいよ」
「くぅ……」
 ……惨敗だ。
 唇で黙らせるなんてひどい。いきなり口説くなんて心臓に悪い。そう、このところ日々悪化していく。何がって致死量クラスの溺愛が。彼は出逢ったころとは大違い。詐欺にも程がある。
 美澄はこみ上げる羞恥心と闘った末、透夜の胸を軽く押し返す。一方、彼は困ったように微笑を浮かべた。
「俺がどれだけおまえを落とすのに必死だったかを、せいぜい記憶と照らし合わせて遡るんだな」
 言い方は相変らず不遜。俺様魔王様は健在。だけれど、彼の愛情がどれほど深いものかは、美澄だってもうわかっている。
「じゃ、おまえからの苦情はまた帰ってから受け付けるわ」
「倍返しするんでしょ?」
「さあな。期待しないで待ってろ」
 そんなことを言い残し、役所から戻ってすぐに透夜は病院に戻っていった。いつでも彼は忙しく余韻に浸る暇はない。
 のぼせそうな溺愛の余韻に浸りつつ、マンションの部屋でいつものように献立を考えていると、薫子から電話があった。
 近くで雑誌の撮影をしていたらしく、柊を連れて遊びに行きたいということだった。美澄はもちろん了承し、うきうきと彼らが来るのを待つ。
 インターフォンが鳴って玄関へ急ぐと、薫子と、彼女にそっくりな小さな王子様がひょこっと顔を出して、「ばあ!」といたずらな顔をする。
「わぁ! 見ないうちにずいぶん大きくなったんじゃないのーしゅうくん」
「みっしゅー」
 久しぶりに会った柊も美澄に会えてうれしかったらしい。はしゃいでハイタッチをしてくれた。
「ふふ。まるでおばちゃんみたい。まあ、間違えてないわよね。柊はあなたの甥っ子になるんだから」
 薫子はそう言い、綺麗なモデルの表情に母親らしい笑顔を覗かせた。
「薫子さん、待ってました。中にどうぞ」
 張り切って中に通すと、薫子が首を傾げる。
「なんか相談ごとでもある感じ? また透夜から何かされた?」
「たっくさんありますよ、それはそれは」
「あらあら。じゃあ、お姉さんが聞いてあげましょうか」
「ぜひお願いします!」
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