絶対に愛さないと決めた俺様外科医の子を授かりました
「束の間の休息だ。楽しむことにするか、色々」
 ちらりと透夜の視線がいたずらに刺さって、美澄はどきりとする。めくるめく溺愛の日々はあれからも止まることを知らない。
 温泉宿に宿泊したら――色々な妄想が捗ってしまう。
「顔に出しすぎ」
 と、透夜に笑われてしまった。
「意味深なことを言うからでしょう?」
 相変らず美澄は透夜に振り回されている。
「はいはい。タクシーが来る時間だな。そろそろ出るぞ」
 荷物は透夜が全部持ってくれた。
 さっそく透夜に続いて玄関へ向かおうとしたときだった。
 ふわっとしためまいを感じて美澄は壁に手をつく。
 梅雨の時期による気圧の変化だろうか。少し気持ち悪さを感じる。ここのところそういうことが多いのだ。
「どうした?」
「ううん。なんでもないよ。先に行ってて」
 ミント飴を舐めればすっきりするかもと思い、テーブルの上に置いてあったポーチの中を探ろうとしたとき、こみ上げるような吐き気がやってきて、美澄は慌てて洗面所に駆け込んだ。
 動悸を感じて、冷や汗が流れる。ざわざわと鳥肌が立っていた。早く楽になりたくて吐き出そうとしても、出てくるのは胃液だけ。
(……びっくりした。朝は食欲なくてヨーグルトだけだったよね。昨日なんかへんなの食べたっけ?)
 しばらく落ち着くのを待ってから、美澄は昨晩のメニューを振り返ろうとして、ハッとする。
 そういえば、しばらく生理がきていない気がする。
「もしかして、妊娠――してる?」
 ドキドキと鼓動が速まってくる。美澄は思わず自分の下腹部をそっと触った。そして思い当たる節をいくつか辿った。
(いつだろう。あのときの……かな)
 無我夢中で求めあっていて、余裕がなかったときが幾度となくあった。
 正式に結婚したという事実が、トリガーになっているのも事実。
(いや、でも、最近の透夜さんの溺愛っぷりからすると、どのときがまったくわからない!)
 思い出せば出すほど、思い当たることが多すぎて、美澄はかあっと顔を染める。
(どうしよ。妊娠検査薬、買ってみた方がいい?)
 透夜はどう思うだろうか。一緒に産婦人科を受診した方がいいだろうか。子どもがあまり得意ではないという彼のことが気にかかる。
 そもそも、温泉旅行に行っていいものだろうか。
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