ライム〜あの日の先へ
零次は一条琴羽という伴侶を得たはずだ。
先ほど小耳に挟んだ立ち話から契約結婚のようだが、それでも結婚していることに変わりはない。それなのに、今だに鈴子への恋情を引きずっているなんて。
誰も幸せにならないというのに。

「今さら恋情が残っているだなんて、君はどうしたいんだ。
鈴子と不倫の関係になりたいのか?
鈴子は今、凛の母親として毎日頑張りながら幸せな毎日を過ごしてる。その生活を乱されたくないと望んでいる。
零次。
もう君は鈴子にとって過去の思い出の中に住む人だ。かき乱さないでくれ」

「待ってくれ、一成」

一成は零次の静止を無視して立ち上がった。

「ただ、一つだけ訂正しておく。
俺は零次を見捨てたりしていない」

一成は空になった紙コップをゴミ箱に捨てると振り返りもせずに病室へと戻る。

かつて、親友はいつも笑ってかたわらにいた。お互いに支え合って苦難を乗り越えてきたあの頃が懐かしい。
今は、鈴子と凛が一成を支えてくれる。零次にだって一条琴羽がいる。

だから、これでいい。

これで、いいはずなんだ……。



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