ライム〜あの日の先へ
「オレはさ、お前が羨ましいよ、一成。鈴子ちゃんの存在が、妹って存在が羨ましい。
お前のおかげでオレまで兄妹の気分が味わえてる。あんなかわいい笑顔でありがとうなんて言われたら、めちゃくちゃうれしいし、何でもしてあげたくなる。
今日はすっげー充実した一日だよ」

小学生の時に同居していた祖母が亡くなってからは、家に帰っても誰もいない。
家で零次を出迎えるのは、足の踏み場もないくらいのゴミから発生した虫くらい。
母は、朝、零次が学校に行ってから帰ってきて、学校から帰る前にはいなくなっている。
家に帰れば、腐敗臭で空気も淀んだ部屋に、母の安っぽい香水のにおいが交じり、既に母が外出したことだけがわかる。

ほとんど顔を合わせることはない。テーブルの上にお金が置いてあることだけがわずかなコミュニケーションだ。

そんな生活の零次にとって、望田兄妹は心の拠り所だった。


「大嫌いな父だけど、鈴子を俺にくれたことだけは感謝してる。鈴子がいなければ、俺は全く別の生き方をしていたはずだ。母親と同じように、生きることになんの意味も見つけられなくて何もかも捨ててしまっただろうな」

初夏の強い日差しの下だというのに、一成の表情は陰りを帯びていた。




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