ライム〜あの日の先へ
「吉田くん?」

その時、警官に付き添われて家の中から現れたのは一成だった。
こちらに気づいた一成は泣いている小さな女の子を抱いていた。
女の子はなぜか緑色の果実を大事そうに握りしめながら泣いていた。

「妹?泣いてるよ?」
「知らない大人が沢山いるからね。怖いみたいだ」
「学校のプリント持ってきた」
「あぁ、ありがとう。しばらく学校休むからプリントは届けなくていいって先生に伝えてくれるかな。いつから行けるかわからないし」


実はこのとき、一成の目の前で母親が父親を包丁で刺して心中を図るいう壮絶な事件が起きていた。
父親は重傷だったが命に別状はなかった。だが、母親は亡くなった。
浮気ばかりで家に帰らない夫。一人きりで子育てに疲れた母親は、やっと帰ってきた夫をここに留めておきたくて発作的に刺したらしい。

凶行が目の前で起きたというのに、一成はいつもと変わらず淡々としていた。ただ、ギュッと妹の体を抱きしめながら、こちらを見ていた。


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