ライム〜あの日の先へ
「おれ、来るよ、毎日来る。望田くんに会えなくても毎日届けに来るし、学校であったこと話しに来るから。
大丈夫。
何があっても朝は来る。腹は減るし、夜も来る。何もしなくても、時間は進むから。
だから、えっと、あれ、おれ、何いってんだろ」


零次は祖母が亡くなったときのことを思い出していた。
未婚の娘が産んだ父親のいない零次を邪魔者として扱い、愛された記憶はない。それでも目の前からいなくなればそれなりに喪失感に襲われたものだった。
大丈夫?とか、頑張れ!といった周囲からの声掛けも、それに応えることさえ億劫だった。
自分は可哀想でも不幸でもない。
だから、いつもと変わらないふりを懸命にしたものだ。

いつもと変わらないように生活していれば、いつもと同じように時間は経っていくことを零次は知っている。

そしてそれが、心身ともにとても大変なことだということも知っている。



「ありがとう、吉田くん。……待ってる」


後から一成が教えてくれた。
あのときの零次の言葉に救われたのだと。誰のどんな言葉より響いたのだと。

あの日から一成と零次は親友になった。
鈴子の成長も零次の楽しみの一つだった。自分の妹のように愛らしい存在。

この時間が、ずっと続けばいい。いや、きっとずっと続く。

零次はそう思っていた。



< 42 / 231 >

この作品をシェア

pagetop