ライム〜あの日の先へ
「話せば長くなる。これ、差し入れ」

零次が手にしていた紙袋を鈴子に差し出す。中身は生のライムとはちみつだった。鈴子の好きなものを覚えていたことがなんだかうれしい。

「ありがとう。おにい、これでとびっきり目が覚める酸っぱいライムジュース作って」
「あぁ。零次は日本酒イケるか?日本酒にライム垂らすと美味しいんだ」
「それ、うまそうだな。頼む」


一成が手際よく飲み物を用意してくれる。

「少し、つまむか」

一成はひじきの煮付けやきんぴらごぼうなどの日本食の惣菜を零次の前に並べた。とたんに彼の目が輝く。

「すげえ!このところ、オートミールとかハンバーガーくらいしか食べてなかったから、うれしいな」
「私が作ったんだよ、この常備菜」
「へぇ。……うん、うまい。鈴子ちゃんやるじゃないか」

日本食を前に嬉しそうな零次の笑顔は、紛れもなく思い出の中の零次の笑顔。鈴子はちょっとホッとする。

ーー懐かしい。カッコいいのに可愛い笑顔。

普段は同級生くらいしか男の子を見かけない。正直彼らは見た目も中身もまだまだ子供。
だけど零次は、見た目は大人の男性として落ち着き払った風格。
だが、不意に見せたその屈託ない笑顔に胸がキュンと懐かしさを覚えた。
大好きだったお兄ちゃん。こんな再会があるだなんて思わなかった。
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