社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
 だが、将臣は、
「母親のペットの世話で頻繁に母親の自宅に行くマザコン、と思われるよりは、付き合ってる女の家から帰ってる、と思われる方がマシだ」
と言い出す。

 いやいやいやっ。
 私的にはなにもマシではありませんっ。

 道連れにしないでっ、と一緒にバス停の列に並びながら、千景は思う。

「社長と通勤してるなんてバレたら。
 玉の輿を狙ってるお姉様がたにシメられるではないですかっ」

「……シメられたのか?」
と将臣が見る。

「いえ、ずっと食べたかったチョコ、おごっていただいたんですけどね」

 じゃあ、いいじゃないか、と将臣が、どうでもよさそうに言ったとき、やけにスピードを落として走っていく黄色い車がいた。

 見ると、あの運転手さんのタクシーだった。

 バス停に並ぶ自分たちを運転手さんは物悲しげに見て去っていった

 ……ように見えた。
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