社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
「入社した当初から前社長に仕えていて。
 経営者として、上司として、尊敬していた。

 だから、ついて行きたいと言ったのに。

 ここに残って、甥っ子を鍛えてやってくれと置いていかれてしまったんだ」

 先輩秘書のひとりは連れていったのに、と事もあろうに、コバエな女子社員に愚痴ってしまう。

「でもそれ、八十島さんが前社長に期待されてたからじゃないんですか?
 こいつなら、甥っ子の力になってくれるはずだと思ったから、八十島さんの方を置いてったんですよ」

 自分でもそうかな、とちょっと思ってはいるが。

 他人の口から断定されると、それが真実な気がして、ホッとする。

 足を止めた八十島は、千景を見下ろし言った。

「……嵐山。
 いいとこあるな」

 えっ、と千景が赤くなる。
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