排球の女王様~私に全てを捧げなさい!
「先生、申し訳ありません。体育館の許可を取らなければいけないとは知らずに、勝手に使用し、騒ぎを起こしてしまい、すみませんでした」
頭を下げる翔に先生は腕を組んで、対応している。先生は一応話を聞いてくれるようだ。
「それで、君は一体誰なんだね?」
「あっ……俺は姫川翔。バレーボール日本代表をやっていて、後輩達にバレーボールの楽しさを教えようと思っただけなんです。こんな騒ぎになるなんて思っても見なくて、申し訳ありませんでした」
「ああ、姫川翔さんでしたか。これは、これは……ですが、騒ぎも大きくなってしまいましたし、この辺で終わりにして頂いてもいいですか?」
「もちろんです。お騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる兄の後ろ姿を見つめ、莉愛は頼もしいと思った。
お兄ちゃん、ごめんなさい。
それから、ありがとう。
帰ったら、きちんとお礼を言わなくてはと思っていると、大地と島谷が舞台の下にやって来た。舞台の上から二人の様子を眺めていると、大地は右手を、島谷は左手を差し伸べてきた。
「莉愛ちゃん行こう」
「莉愛、おいで」
そんな二人の手を交互に見やってから、莉愛は迷わず大地の手を取った。嬉しそうに莉愛が大地に微笑みながら、ぴょんっと舞台から飛び降りると、そのまま大地の腕の中へ。それを見た島谷が、一瞬悲しそうに眉を寄せたが、すぐにいつもの調子で大きな声を出した。
「あーっ、くそっ!やっぱりダメだったか。莉愛ちゃん振り向かせるチャンスだったのに」
それを聞いた大地の体がピクッと動く。
大地?
「島谷さん、莉愛は渡しませんよ。チャンスなんて、一生訪れませんから」
そっと、莉愛が顔を見上げると、大地が口角を上げ笑っていた。自信満々のその笑顔は、狼栄のスーパーエース大崎大地ここにありと、知らしめるような王者の風格だった。
ひゃーー!!
大地……。
格好いい。
島谷さんには申し訳ないけど、やっぱり私は大地が好きだ。
莉愛が大地に見惚れていると、先生の声が体育館に響き渡る。
「残っている者はすぐに体育館から出なさい。早くしないと体育館の鍵を閉めるぞ」