王女の選択

1

あと何人切り倒せばいいのか。

戦いが始まって、十二日目。

カーラ・セルドウィックはブレードを下にしたまま辺りを見渡した。
目に映るのは死体の山。血の海。焼け焦げた木々。
――― そして、鼻を突く異臭。

一人の捻じれた考えによって、多くの命が失われていることにカーラは我慢ならなかった。

足元に目をやると、手の平サイズの手帳が落ちている。
血痕と土埃がこびりついていて、元の色が良くわからない。紐を解くと、中から二つ折りにされた紙の中にカーラの国花であるゼラニュームの押し花が挟まれていた。
恋人か家族の一人が帰還することを祈って持たせたのであろう。
カーラはそっと押し花を戻すと手帳を閉じた。
残念ながらこの手帳の所有者は目の前にある死体の山の一体かもしれない。


多くの国民を巻き込んでしまった。

カーラは腹の奥底から吹き上がる憤激を食い止めようと唇を噛みしめたが無理な話だった。

始まりはカーラの父、現国王ルドルフの傲慢が原因だった。
カーラの国セルドウィック王国は周辺国に比べて小さかったが、緑豊かなだけでなく海にも面していたため、商業が盛んだった。

港から運ばれる数えきれない外国製品は、ここセルドウィックを拠点として内陸の国々へと運ばれており、周辺国が羨む立地にあるこの国をルドルフ国王は治めていた。

しかし、病で倒れた妃が亡くなった後、ルドルフは豹変した。
周辺国との関係は徐々に傾いて行き、特に隣のストラウス公国とは領土問題を機に悪化。ルドルフが奇襲をかけたことで、この戦いを引き起こしてしまったのだ。

< 1 / 196 >

この作品をシェア

pagetop