こんなのアイ?




 ふと顔を上げると二度目の離婚前に、私に直接会いに来た女性がいる。

「…あっ…」
「その節はどうも…あなた三度目の結婚したの?」

 と女性は私の隣の悠衣を見て言い、出入口付近で赤ちゃんを抱いて立っている男性に目をやってから続けた。

「私もあのあとすぐ彼とは別れたのよ、何人か女がいたから。でも今は結婚して幸せよ。彼とは別れて正解よね、お互いに」

 そう言ってすぐに出入口の乳児を抱く夫の元へと行ってしまった。放心して立ち尽くす私に

「愛実」

 悠衣が少し身を屈め声をかけてくれたのでハッと我に帰り、訳もなく込み上げてきたものを飲み込むと残りの荷物を袋に詰める。

「ごめんなさい、お待たせしました」
 
 離婚も元夫にももう全く何も思わないし思っていないのに震えそうな声と震える手…

 彼は袋を片手に持ち、もう片手は私の肩に回した。そして肩を擦りながら…泣きたくなるような深く優しい声で言ったんだ。

「一緒に帰ろうな、愛実。大丈夫…俺がいる」

 彼が開けてくれた助手席のドアから車に乗り込み彼が運転席へ着くまでの一瞬…車内に一人の瞬間に涙が一滴頬を濡らす。大丈夫…昔のことよ。もう誰にも騙されない。悠衣が運転席へ座ると

「ありがとう。買い物に寄ってもらって助かった」

 と落ち着いて言えた。なのに…彼は

「お前はバカか」

 とまだシートベルトをしていない私を両腕に閉じ込めた。
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