こんなのアイ?




「悠衣、コートここに掛けてね」

 玄関すぐにある、僕のコートと2着の愛実のコートが掛かった小さな幅のオープンクローゼットを包帯の手で示し足早にキッチンへ行く。愛実が可哀想に突然の悠衣の訪問に慌てていたからね。手を拭きながらキッチンから一歩出てきていた彼女の頭を左手で撫で

「慌てなくて大丈夫。足りなくても大丈夫。このままでいいよ」

 と悠衣にも聞こえるくらいに言うと彼女は僕を見上げコクンと頷いた。

「急で悪かったな、愛実」

 悠衣の言葉に曖昧に頷き、こんばんはと言った愛実は

「ここ3人座れる?あっ…私、あっちのローテーブルに行こうかな」

 と備え付けのカウンターテーブルを見やった。昨日は克実も来たけど僕と時間差がありここの小さなカウンターに同時に3人が座ることはなかったんだ。椅子も2脚しかない。

「洗面所にある踏み台持って来ていい?僕あれに座るよ」
「持って来るのはいいけど…低くない?」
「僕の身長ならいけるんじゃない?愛実は無理だけど」

 そう言って台を持って来ると悠衣が僕と愛実に聞く。

「ここにブレントが当たり前に来ている訳は?」
「ブレントがケガして不自由でしょ?私を庇ってくれてヒビいっちゃって…だから夕食はここで食べてもらってるの」

 詳しく知らなかった悠衣が僕の方を見るが、それ以上の説明もない。素知らぬ顔で踏み台に座って愛実に声をかける。

「ほら愛実、いけた」
「ブレント座高が高い!?あははっ…冗談です。座り心地はいかが?」

 1週間でずいぶん軽快に話をしてくれるようになった彼女は忙しく手を動かしながら笑った。
< 56 / 196 >

この作品をシェア

pagetop