空の表紙 −天上のエクレシア−


―――――フリートの剣先が
ピッキーノを斬った



キョトン、とした後
自分の鎧が
斜めに切れている事に気がついた

「う…………うわああああ?!!
い…痛いっ!!ひいいい!!」


ピッキーノはフリートの横へ
暴れながら倒れた

「何故だフリートおお!!
何故だフリートおおお!!!
お前は私のグループなのに!」


『…あの村の人間は
全て私が殺しました
―生き残りはいません』


「な!!何でそんな?!
酷いじゃないかフリート!!」


―フリートはもう一度
感情の無くなった紅い眼で
ピッキーノを見下ろし
腰の横で構え、足元で剣先を反す



「ひ…ッ
まっ!まあ待てフリート!!
いつでも面倒見てやったじゃあないか!!
私は精一杯努力して
やってるじゃないか!!
いつだかの戦で怪物が集団で
襲って来た時だって、
俺が勇敢にオトリとなって
我らの一軍を救ってやったじゃ
ないかッ!!」



「…確かに…一軍は…
助かりましたね。
だが貴方が地形を知らず
闇雲に走り回り逃げた御陰で

周囲の村々全て全滅したのは
お気付きには
なっていないのですか。」


「…?!
ちょっと待ってくれフリート!!
それは初耳だ!!
いや、聞いてくれフリート!!」

『もういい。…いらないのは貴方だ。』

「…き…聞けよ…。
聞いてくれよフリートおおお!!」




――叫ぶピッキーノを無視して
フリートはガラの顔に
そっと触れた



「―私は…
ただ貴女に…
普通に歌って欲しかった…

義務とか…責務とか無しに…。

皆ただ普通に…皆、
自由に生きて行ける世界を
欲していただけなのに…」






―――いつの間にか螺旋の下に
皆集まって居る



それを認めるとフリートは
もう冷たく横たわるガラの体から
手をとって騎士の礼をする

そして優しく体を抱き上げ
青い空と砂漠の風の中

何も書かれていない
ただ青いだけの表紙

その『本』の中へ、ゆっくりと、向かった







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