空の表紙 −天上のエクレシア−







−この塔に来る先刻まで

白兎は、自分の部屋で
魔法書を読んでいた



(そういえばアクアスは
もう戻ったのかなあ)

夕立もあったし
今日は本当に暑かった


弟子であり
側仕えをしているビディから
着替えを手渡され袖を通す


最近忙しかったが
建国祭には
魔術師のトーナメントもあるし
少し見てやらないとなあ
と思う


去年ビディは
この町に来たばかりで
目新しさに誘惑されたのだろう
遊びすぎて、
彼の実力なら充分勝てる相手に
寝不足がたたって負けたのだ

最近は白兎が寝た後でも
コッソリ灯りの下で
魔術書を開いている様なので
安心はしているのだが


着替えを済ませ
食事を取ろうと
自室から兵舎へ行こうとしていた時だった


早いリズムで呼鈴が鳴らされ
何事かと扉を開ける

立っていたのは
余り見掛けない衛兵で
その様子から周りを気にして
怯えている事がわかった


「入って。」


扉を閉めた途端兵士は
白兎にすがる様に平伏す

「お願いします!
あいつを助けてやって下さい!
ほ、ほんとは絶対
誰にも言うたらいかんて
小隊長さんに言われたけんど、

ワシ、ああいうんなって
眠り続けて死んだ人
見た事あるです!
アイツは一緒に田舎からでできた
親友なんです!
助けてやってつかあさい!」


「ぬ。俺の所に来たって事は
『魔術』でやられたのか。」

兵士は手を握りながら
激しく頷く

「ビディ。そこの鞄を」


ただならぬ様子に
彼も慌てて用意するが、
事件の香りに
わくわくしているのは隠せない


「場所はどこ?」


「へ、へい。…塔です…」


「塔…って。
あそこは牢だったけど、
老朽化があまりにも酷いし
危険だからってんで立入り…」


言掛けて止める。


(何かあるのか
町からも遠いし
深い森の中に立っているから
気にした事も無かったが…







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