空の表紙 −天上のエクレシア−
宿直室の兵士達は
まだ倒れた時そのままの姿でいた
…口から泡を吹いている訳でもないし、
皮膚に斑も出て居ない
ただとても深い眠り
白兎は、くまなく様子を診る。
ふと奥への扉の下を見ると
水を撒いた様な跡があった
辺りにまだ薄い芳香が漂っている
「…これは睡緑花系抽出の
薬品が使われたんだな」
「睡緑花?」
「うん。
洞窟のコケなんかにも
同じ成分を持ってる物がある。
本に載ってたの見ただけなんだけどね。」
「…洞窟…」
「うん。俺もそんなに詳しく無いけど、
粉にして初めて意味があるみたい。
ただ揮発性がすごくて
加工するのが大変らしいよ。
花火の色が綺麗になるからって
昔は使われてたみたいだけど
今は使用禁止になってて
一般で手に入れるのは
まず無理じゃないかな
咲いてるのが一晩とかだし
雨にも弱いらしい
多分…その性質を使った
速攻性の眠り薬と思う」
「ありがとう。さすがですね
では彼らへの対処法はどのように?」
「朝になったらそのへんに転がして、
いーっぱいお天道様に当てれば治るよー」
「こ、転がす…」
「ま、でもせっかく来たし
、一応治癒呪文かけるねい。」
「はい。ありがとうございます」
白兎の右手の平から
細かい幾つもの光の粒が現れる
左手で受け一回両手を閉じ開くと、
白い光の球になった
それをポーンと三人の体の上に浮かす。
光が照らし出し
それに体が包まれると
少し三人の顔色が良くなった様だ
『うむ。』と坊主頭を擦り
白兎はフリートの方を向く
「それで、さっき言ってた
そこの森でキャンプ張っちゃってた
旅芸人一座はどうしたの?」
「我々が到着する前に
ここの守衛が追い出したそうです
建国祭が近いですから、
出稼ぎの者の流入で
こういった騒ぎは増えますね」
「うーん。考え過ぎかもだけど
この件と関係あるかも…?」
「はい。充分有得ますので
少しこちらの方で調べます」
「で、塔から誰が逃げたの。」
「…」
押し黙るフリートの横を抜け
奥への扉を開く
目線は遥か上へ続く
螺旋階段の闇に向かっていた。