今宵、幾億の星の下で
しかしだ。

いくら希少価値の高い宝石に魅入られたからといって、自宅に持ち帰り保管することは危険すぎる。

外せるのかさえも今のところ、わからない。

拓馬も同じことを考えていたのだろう。
少し考え、やがて口を開いた。

「人知れず寝泊まりできる場所がある。君さえよかったら」


即、玲は頷いた。


拓馬は社用車ではない自分のスポーツタイプの車に玲を乗せると、そこへ向かう。
あの旗艦店からは一時間かかる郊外の山であった。

駐車スペースにくるくるとを停め、懐中電灯とランタンを取り出すとそれぞれを手に持つ。
道がわかる程度の月明かりでソーラーライトを頼りに、二人は山道を歩きだした。

拓馬自身は必要ないと考えているのだが、たまに迷い人があるので、ソーラーライトを付けたそうだ。


「元々は祖父母の家だったんだが……」


亡くなってからは空き家で廃墟となっていたが、拓馬が譲り受けリフォームして別荘として使っているという。


「夏休みにくらいしか祖父母に会えなかったが、ここに来ることが楽しみだった」

「ふふ、優しいお祖父さまだったんですね。……わたしのお祖父さんは『玲、おまえは医者になれ。それには英語が必要だ』なんて云って叩き込まれたんですけれど、園芸店に就職したと報告したときの、あの表情といったら……」

「ははっ、おれも似たようなもんさ。山林事業を引き継いだはすが、宝石商人になっているだなんて、思ってもいないだろうからな」


誰もいない月明かりが照らす夜道に、男女二人の笑い声が響いている。

気を遣っているのであろう、拓馬は色々と話してくれた。
玲もまた色々と話してしまった。

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