今宵、幾億の星の下で
旗艦店のオープンは伝説級のアクセサリーが登場したこてもあり、大盛況に終えた。


テレビ、インターネットでも『幻の宝石』『伝説のアクセサリー』などのキーワードが賑わいを見せている。


「『謎の美女』ですって。……ふふ、おもしろいですね」


玲の正体は不明のままだが、悪い気はしなかった。
白いシンプルなシフォンドレスに、品のあるヒール。
それに高価な宝石。
夢のような服装だ。
拓馬が急いで用意させたものだが、サイズも完璧で、玲によく似合っていた。

「おれの見立てだからな。当然だ」

拓馬が表情を崩さずに話すので、玲は小さく吹き出してしまった。

「ありがとうございます、勝倉社長。いい思い出になりました」

御披露目は終わり着替えたものの、耳元と胸元の宝石は外れないままだ。
色は優しく落ち着いていて……なんとなくだが、眠っているような。
そんな雰囲気を感じとれる。


「その宝石は云われがあって。猫の魂が入っていると伝えられているんだ」


その昔、猫と幸せに暮らしていた女性がいたが、その猫の瞳はあまりにも美しく、噂を聞き付けた国の王様に取り上げられてしまった。

当然、猫は懐くことはなく何度も脱走を試みて、やがて抜け出したが逆上した王様は兵士に殺せと命じ、飼い主のところへ戻ってきた時には息も絶え絶えで、胸のなかで息を引き取った。

嘆き悲しむ女性が荼毘に付し、遺骨を取り出そうとしたところ、骨ではなく宝石が出てきたという。

猫は神さまにお願いし、いつも一緒にいられるように宝石の姿に生まれ変わったとか。


「……この宝石は、その猫ちゃんかもしれない、ということ?」

拓馬は頷く。

「市毛が云ったかもしれないが、この宝石は人を選ぶ。あなたに何かを感じとったんだろうな」

玲は嬉しそうに宝石を撫でる。

「信じますよ、その話。わたしは園芸店で働いているんですけれど……今日は猫草、マタタビと西洋マタタビの出荷と、種まきをしていたんです。いい匂いがしたのかもしれませんね」


他にもマタタビ科の植物キウイフルーツの苗づくりも行っており、猫にはたまらなかったのだろう。


< 9 / 33 >

この作品をシェア

pagetop