今宵、幾億の星の下で
事件

決別

そんなしばらくが過ぎた、ある日のこと。

旗艦店でお披露目した『フェレース・スコンベル』の取材を正式に受けることになった。

市毛支店長と社長室でとある契約のやり取りを終了し、席をたつ。

「『フェレース・スコンベル』の取材だとさ。あのお披露目以来、注目度が上がっている。いいことだ」

「ええ。玲さんのおかげですわね。いってらっしゃいませ、勝倉社長」


宝石は社長である拓馬が直々に管理しているため、保管場所である別荘に取りに向かう。
拓馬と玲の他、極一部の人間にしか保管場所は教えていない。


本店で展示はしてあるが、それは模造品だ。


「君が太陽なら、真梨奈は月だ」


玲と別荘で過ごしていた拓馬は、嬉々として園芸作業に没頭する玲を見つめている。

「男が……誰かの光がないと輝けない」
「平塚らいてうさんの言葉ね」

玲は言葉を返したが、明らかに困惑している表情だ。
それはそうだろう、正妻と愛人を比べられて、気分が良くなるわけがない。

「拓馬。わたしは、太陽にも月にも惑星にもなれない、ただの影よ。好きなあなたと『フェレース・スコンベル』の力になりたいだけ」

笑顔を見せていたものの、どこか悲しげな玲。
その感情を読み取ったフェレースが、すり寄るように色が変化していた。

「待っていてくれ、玲」

拓馬は車を走らせている。

山荘で目当ての宝石を持ち、出口へ向かう時だった。

「……?」

ガソリンのような匂いに気付き足を止めた、その瞬間。
突然、炎があがり出入口を爆炎が包んだ。


「……!!」


炎は一瞬で山荘を包みこみ、建物が炎で見えないほどだ。
そして不完全燃焼の黒煙が昇り、通報を受けた消防車のサイレンがけたたましく響きわたっている。






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