神殺しのクロノスタシスⅣ
そんな訳で。

数分後には、俺とシルナは、南方都市シャネオンの駅にいた。

え、どうやって行ったのかって?

空間魔法だよ。

シルナの空間魔法で、ここまでひとっ飛びだ。

生徒達もこの空間魔法で、一瞬で連れて帰れれば良いのだが。

残念ながら、シルナの空間魔法では、一度に転移させられる人数は限られる。

空間魔法のプロである、聖魔騎士団のルイーシュなら、話も違っていただろうが。

ったく、要注意区分に指定されている魔法を、こんな安易に…。

良い子は、絶対真似しちゃ駄目だぞ。

まぁ、真似出来るほど空間魔法に長けている魔導師は、そういないと思うが。

で、辿り着いたのは良いものの。

「うわっ、凄い人…!」

「…全くだ…」

シャネオンの駅は、溢れ返らんばかり人でごった返していた。

駅構内に入るのも大変そうだ。

下手して割って入ったら、押し潰されそう。

生徒が心配だな、この調子じゃ…。

上手いこと避難してくれれば良いのだが、このごった返した人混みの中に、巻き込まれていたら…。

突き飛ばされて、怪我をしててもおかしくない。

そうなったら、マジでシルナが発狂するぞ。

さすがは、王都に次ぐと言われている大都市。

人の数が尋常じゃない。

一見見たところ…うちの生徒は見当たらないが…。

しかし、シルナは。

「…はっ!あれは!」

「は?」

「ヘーゼルちゃーん!」

シルナは、群衆の中を掻き分けて、一人の少女を見つけた。

慌ててシルナについていったら、そこには。

「えっ…学院長先生…?それに…グラスフィア先生まで…」

イーニシュフェルト魔導学院の四年生、ヘーゼルという女子生徒を見つけた。

シルナの視力、どうなってんの。

この群衆の中で、自分の生徒を見つけるとは。

しかもヘーゼルは、学生寮に着いてから制服に着替えるつもりだったらしく。

今の彼女は、茶色のブラウスに花柄のスカートという、少女らしい、至って普通の私服なのに。

自分の生徒限定で、物凄く視力が良くなるらしい。

普段は老眼の癖にな。

「羽久が私に失礼なことを考えてる気がするけど、今はヘーゼルちゃんに会えたから良いや!」

あっそ。

「学院長先生…どうしてこんなところに…?」

ヘーゼルは、驚愕に目を見開いていた。

当然だろう。

王都セレーナにいるはずのシルナと俺が、何故ここにいるのか、と。

「ヘーゼルちゃん達が帰ってこないから、心配で迎えに来たんだよ!」

と、答えるシルナ。
 
これにはヘーゼルもきょとん。

「大丈夫?一体何があったの?」

そう尋ねるシルナに、ヘーゼルは戸惑いながら答えた。

「え、えぇと…。ごめんなさい…。私にも、よく分からなくて…」

何があったのかなんて、ヘーゼルの方が知りたい状態らしい。

とりあえず。

「お前が悪いんじゃないから、謝らなくて良いんだぞ」 

「は、はい…」

「ヘーゼル、お前確か出身は…」

「ヘーゼルちゃんは、リオンにお家があるんだよね!」

と、何故かヘーゼルではなく、シルナが答えた。

何でお前が答えるんだよ。

よくもまぁ、生徒の出身地まで知っているものだ。

それはともかく。

リオンと言えば、シャネオンより更に南方にある都市だ。

成程、彼女はリオンにある実家に帰省していて、リオンの駅からシャネオンにやって来て。

ここで王都行きの列車に乗り換えて、イーニシュフェルト魔導学院に戻ってくるつもりだったのだろう。
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