神殺しのクロノスタシスⅣ
こんなにも大変な(?)思いをして、クラスメイトの為に昼食を買いに行ったというのに。

彼らは、戻ってきた俺を見て一言。

「おせーんだよ。何グズグズしてんだ」

ちょっと。それはあまりにも酷いのでは?

ありがとうとか、お疲れ様とか、そんな一言が出てこないものか。

しかも。

「お前があんまり遅いからさぁ、代わりにお前の弁当食っちまおうかと思ったんだけど」

と、三人のうち一人が、にやにやしながら空の弁当箱を掲げて見せた。

見覚えはないはずなのに、「あれは自分の弁当箱だ」という確信があった。

「一口食ったら不味過ぎて、思わずひっくり返しちまったよ」

言われて、彼の足元を見ると。

俺の弁当箱に入っていたであろう、食べ物の残骸が、床に散らばっていた。

色とりどりの、ご飯や卵焼きやブロッコリーが、教室の床に溢れている。

…なんということを。

故意に食べ物を粗末にするなんて、あってはならないことだ。

嫌がらせにしたって、これはあまりにも酷い。

食べ物を無駄にした挙げ句に、これを作ったであろう人の努力も、踏みにじったのだ。

思わず叱責を飛ばしたくなったが、その前に。

男子生徒の一人が、そんなことはもうどうでも良い、とばかりに、俺の持っていたビニール袋を引ったくった。

「さーて、メシだメシ。お前も食えよ…もう犬の餌だけどさ!」

彼は、散らばった弁当箱の中身を見下ろして、馬鹿にしたように言い。

他の二人は、釣られてゲラゲラと下品な笑い声を立てた。

…なんて連中だ。

親の顔が見てみたい。

しかも、彼らの蛮行はこれだけに留まらない。

「はぁ?何これ。あんまんじゃん。俺肉まんって言わなかったっけ?」

肉まん希望の男子生徒が、あんまんを一口齧って、顔をしかめた。

あ、そうだったっけ。

「あの…肉まんが、売り切れで…」

「売り切れ?だから何だよ。見つかるまで探してこいよ、頭足りねーなお前は」

むっ。

酷い言いようだ。いくら食べたかろうが、売り切れていたなら仕方ないじゃないか。

何でそれだけで、頭足りない呼ばわりされるんだ。

しかも。

「あんまんなんて、こんな甘ったるいもの要らねーよ」

あんまんがお気に召さなかったらしい彼は、手にしていたあんまんを、そのままゴミ箱にダンクシュート。

僅かに一口だけ食べられたあんまんは、ボスッ、と音を立てて、ゴミの山に沈んだ。

な、なんという…食材への冒涜。

いかに食事の必要がなく、食べ物とは縁遠い生活をしている俺でも、この蛮行はあんまりだと思う。
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