神殺しのクロノスタシスⅣ
…と、いう確信を得たは良いものの。

それだけだった。

それ以上のことを思い出せない僕に、行動を起こすことは出来なかった。

何かが足りないのだ。何かが…。

僕は忘れている。とても大事なことを…。

一番大切なことは覚えてるのになぁ…。それ以外がさっぱりじゃ、どうしようもない。

だから僕は今日、こうして。

周囲に流されるようにして、村のお祭りに参加している。

例の、幼女がくれた白いビーズのネックレスを、首から下げて。

僕って本当、何やってるんでしょうね?

「…あら?どうかしました?」

僕がボーッとしているのを見て、ご婦人が声をかけてきた。

今日はご婦人も、お祭りだということで、特別綺麗な着物を着て、色鮮やかなビーズをつけておめかししている。

村の皆がそんな感じ。

「あ、いえ…大丈夫です。それより…あの、盛大なお祭りですね」

「えぇ。そうでしょう?」

村をあげてのお祭りだというのは、本当だったようで。

ご主人と、村の男衆が時間をかけて建てた小屋には、村人全員が入れるほどの広さがあった。

そして、今日の為に作られたご馳走の数々が、小屋の中央に所狭しと並んでいる。

今日はお酒も次々と開けられて、僕は遠慮して飲まなかったけど、既に五、六回ほどお酒を勧められている。

どうしても、とてもお酒を飲む気分にはなれなくて。

更に、様々な楽器も持ち込まれて、笛や太鼓の音が小屋の中に響いている。

その音楽に合わせて、村人達は踊ったり歌ったり、まさにお祭り騒ぎとはこのことである。

「遠慮しないで、お祭りを楽しんでくださいね」

「はい…」

ご婦人に気遣われても、僕の心境は変わらない。

僕はこんなところにいてはいけない。彼らが楽しそうであればあるほど…僕は疎外感を感じるのだ。

それに何なんだ、この白いビーズは…。僕に白なんて、似合うはずがない。

折角幼女が作ってくれたから、仕方なく身につけてはいるけれど。

正直、外したくて仕方なかった。

すると。

「お兄ちゃん、はい、これ」

僕にこのビーズのネックレスをくれた張本人が、食べ物を乗せたお皿を持ってきた。

「今日しか食べられないおやつなんだよ。美味しいよ」

「あ、はい。ありがとうございます…」

「ねぇ、お兄ちゃんも向こうで一緒に踊ろうよ。皆踊ってるよ?」

お、踊りって…。

「いえ…僕のことは気にしなくて良いですから、楽しんできてください」

「…?そう?」

「えぇ。折角の…年に一度のお祭りなんでしょう?ほら…向こうでお友達が待ってますよ」

「うん。じゃあ、また後で戻ってくるね!」

そうですか。

僕は、努めて笑顔で幼女を送り出した。

…はぁ…。

何でだろう。今日はいつにも増して、気分が冴えない…。

折角皆お祭りで楽しんでいるのに、一人だけテンションが低い奴がいたら、萎えるよな…。

せめて、楽しそうな振りでもしてれば良いんだろうけど…。

それすら出来る気がしないので、いっそもう、僕のことはいない者として、そっとしておいて欲しい…と。

思っていた矢先。

「ここにいたのか」

…うげ、と言いそうになった。

今度は、僕が厄介になっている家のご主人が、僕の前にやって来た。
< 332 / 795 >

この作品をシェア

pagetop