神殺しのクロノスタシスⅣ
「どうした。気分が優れないのか?」

「いえ…そんなことはないんですが…」

嘘です。本当は気分、全然優れないです。

でも、お祭りが楽しくなくて…なんて言ったら、角が立つもんな。

「じゃあ、やっぱり遠慮してるのか」

…それはあるかも。

何せ、自分の居場所じゃないと思ってるんだから…。

「まぁ、無理もないか。己が何者かも分からず、故郷で家族が心配しているかもしれない状況で…浮かれて祭りなど、楽しめるはずもない」

「…えぇと、それはその…」

「今日だけは忘れろ…と言いたいところだが、そう簡単には切り替えられないだろう?」

…結構あなた、鋭いんですね。

この村の人は、楽観的な人が多いと思っていたんだが。

「とはいえ…別に、そんなに深く考える必要はない」

そう言って、ご主人は僕の隣に腰掛けた。

「お前さえ良ければ、ずっとこの村にいても良いんだから」

「…え…」

…それは初耳なんですが?

「村長とも話した。記憶をなくし、故郷の場所も分からない者を…いつまでも根無し草にしておくのは、生殺しにするようなものだ。ならいっそ、この村でやり直せば良い、と」

「やり直す…僕が、ここで…?」

「あぁ。お前さえ良ければ、ずっとこの村にいると良い。誰も反対しない。この村で家を持ち、家族を持てば良い。村長を始め、皆もお前のことを歓迎している」

「…」

「この村は平和だ。争い事など何もない…。だからここにいれば良い。ここに定住して、ここで大切なものを作って…新たな人生を始めれば良い」

平和。

僕はその一言で、何かのスイッチが入った。

「ここでの生活は、きっとお前に安らぎを与えるだろう。失ったものは、1から取り戻していけば良い…。大事なのは過去ではない。未来だ。過去など捨てて、これからの未来を明るいものに…」

「…僕も、そう思ってた時期があるんですけどね」







…何もかも。


…全部、思い出した。




「…僕には…明るい未来なんて、ないんですよ」

僕は、首に下げていた白いビーズのネックレスを外し。

それで、素早くご主人の首を絞めた。
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