神殺しのクロノスタシスⅣ
…ハッと、気がついたとき。


僕は、木の上にいた。

木の幹に足をかけ、枝に手を伸ばしているところだった。

が、いきなり意識が覚醒した為に、身体から力が抜けていたらしく。

幹から足を滑らせた僕は、ふわり、とスローモーションのように仰け反り、このままだと地面に向かって真っ逆さま。

手を伸ばしても、最早枝に手が届く距離ではなかった。

「きゃぁぁっ!」

落下している僕を見て、誰かが悲鳴をあげていたが。

落ちるのはもう仕方がないので、僕は頭を上にして、落下に備えて受け身を取った。

時間にして、1秒足らずの出来事だった。

僕は敢え無く、どすん、と地面に落下。

しかし受け身を取っているので、身体はノーダメージである。

どんな体勢からでも、瞬時に受け身を取れるよう、散々訓練されてきた身だ。

こういうときは、役に立つ。

…が。

「…令!大丈夫!?」

知らない女が、素っ頓狂な声をあげて僕に駆け寄ってきた。

…令?

それって、僕のこと?

「僕の名前、令月…」

「怪我はしてない!?何処か痛いところは!?…まさか、あんなところに登るなんて!そんな危ないことをしないの!」

「…」

怒涛のように畳み掛けられて、返事に困る。

…この人誰?

「怪我は!?」

まず何よりも、怪我をしているか否かが心配であるらしく。

真っ青な顔をして、怪我はないかと尋ねてくる。

「してない」

身体を確かめるまでもなく分かる。

まさか10階建てのビルから落ちた訳でもなし。

見上げてみると、僕が落っこちた木は、精々3メートルもない低木。

僕にとっては、ちゃぶ台から飛び降りるのと同じことだ。

本能的に受け身を取ったけど、別に受け身を取るまでもなかったかもしれない。

しかし。

「もうっ…!あんなところに登るなんて!怪我をしたらどうするの!?」

その女は、泣きそうな顔で言った。

…何がそんなに心配なんだろう…?

「あんな渋柿を取る為に…!」

…渋柿?

言われて、木を見上げてみると。

確かにそれは、柿の木だった。

実がたわわに成っているけど、あれって渋柿なんだ。

…干し柿にしたら、美味しいよね。
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