神殺しのクロノスタシスⅣ
あんなちっぽけな柿の木から落ちたところで、僕は全然ノーダメージなのだが。

例の女が、まるで大怪我でもしたかのように騒ぐので。

その後、僕は病院に連れて行かれた。

病院は好きじゃない。特に注射は嫌いだ。

注射はしないで、と看護師に頼んでみたが。

我儘言わないの、と言われた。

僕は針が嫌なんじゃない。何を注射されているのか分からないのが嫌なのだ。

こっそり神経毒でも混ぜられていたらどうしよう、って…不安になることない?

え?ならない?

…変わってるね。

とはいえ幸い、注射はされなくて済んだ。

代わりに、レントゲンなるものを撮られた。身体の中の写真らしい。

例の女と共に、診察室に呼ばれ。

ハゲ頭の医者に、「何処にも異常はないですね」と言われて初めて。

その女は、涙を流さんばかりに安堵していた。

大袈裟過ぎる。

別に、何処も怪我してないのは分かりきっているのに。

怪我していたら、痛みで分かる。

痛みで分からない怪我は、怪我にカウントされない。

放っとけば大体治る。

それが僕の持論だったのだが…。

どうやらこの女は、医者のお墨付きをもらわなければ、気が済まなかったようだ。

更に。

「あんな危ないことするなんて…。怪我がなかったから良かったようなものの…」

帰ってからも、ぶつぶつと文句を言われた。

大袈裟だな。

…ところで、この人は誰なんだろう?

この女、僕のことを何故か「令」と呼ぶ。

僕の名前は令月なのだが…。敢えて略称で呼んでいるのだろうか?

僕にとってこの人は初対面なのに、あだ名で呼ばれるのって、何だか嫌だな…。

と、思っていたら。

「良い?令。もうお母さんを心配させないでね。お願いだから」

その女は、僕に向かってそう言った。

…お母さん?

この人、僕にとって母親なのか?

これは青天の霹靂だった。
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