神殺しのクロノスタシスⅣ
第二部Ⅱ
「成程。なら、案外と話は早いじゃないですか」

たった今、七日後に迫る死の宣告を告げられたにも関わらず。

イレースは、あっけらかんとして言った。

は、話は早いって…。

「あなたの、その空っぽの瓶をいっぱいにすれば、この趣味の悪い指輪も外れるんでしょう?」

「そうだよ。でも…そう簡単に、それが出来るかな?」

「出来るか出来ないかではありません。…やるんです」

イレース…。

こんなときでも、少しも狼狽えないその姿は、さすがだと思うが。

でも今回ばかりは、さすがに…。

度胸や意気込みだけで、どうにかなる問題ではない…。

「で?私は、あなたに何をすれば良いんですか」

「君は僕に、『恐怖』の感情を教えてくれれば良いんだよ」

イレースに指輪を嵌めた、黒い服の小人は、生意気な顔でそう言った。

「恐怖」…。

シンプルではあるが、故意に他人にこの感情を抱かせるのは、なかなか難しい。

って、それはあらゆる感情で言えることだが…。

「僕は白雪姫に、『恐怖』を教えたいんだ。さぁ、僕に『恐怖』を味わわせて、感情を小瓶に満たしてよ」

「成程…。つまり私は、あなたを怖がらせれば良いんですね?」

「そういうことだね。まぁ、それが出来たらの話だけどね!」

…自信たっぷりじゃないか。

自分を怖がらせられるものなら、やってみろ、と言わんばかり。

マジでムカつく。

「良いでしょう。では、色々と準備が必要なので…。…明日までお待ち頂いても?期限は七日なのでしょう?」

「うん、勿論良いよ〜」

…どうやら、イレースには何か考えがあるようだ。

しかし、そんなイレースを嘲笑うように、黒い小人は挑発を続けた。

「でも、そんな悠長なことしてて大丈夫かな?そうこうしてる間にも、約束の刻限は刻一刻と迫ってるんだよ〜?」

人を腹立たせることにおいては、プロだなこいつは。

が、イレースは、そんな安っぽい挑発には乗らない。

「えぇ、構いません。明日、再び相見えるとしましょう」

「ふーん。まぁ良いけど。じゃ、明日を楽しみにしてるからね」

にやにや、とムカつく顔で笑いながら。

小人共は、棺桶の中に帰っていった。

出来ることなら、一生そこから出てきて欲しくない。
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