神殺しのクロノスタシスⅣ
「…?僕ならいますけど…。僕に何か…?」

「あぁ、はい。先程学院に、あなた宛ての手紙が届いたんです」 

僕宛ての?

…って、何で?

僕に郵便物を送るなら、イーニシュフェルト魔導学院じゃなくて、聖魔騎士団魔導部隊に届くはず。

僕が所属しているのはイーニシュフェルト魔導学院ではなく、聖魔騎士団なのだから。

今僕が学院にいるのは、『白雪姫と七人の小人』の契約の為で。

僕がここにいることは、外部の者は一切知らないはず…。

それなのに、何故僕宛ての郵便物が学院に…?

「差出人は…?」

「さて…私は存じ上げないんですが…。見たところ、エリュティアさんの…ご家族の方ですかね?これは」

イレースさんにそう言われて、僕は再びゾッとした。

肉体的な痛みをいくら与えても、僕にはさしたる効果はない。

でも、精神的な痛みなら…?

そして、僕を精神的に攻撃するのに、一番有効な手段と言えば、それは…。

「どうぞ」

イレースさんに手渡された手紙を、僕は半ば震えながら受け取った。

真っ先に封筒を裏返し、差出人の住所と名前を見る。

そこには、予想通り。

見覚えのある住所。見覚えのある名前。

それは、僕が捨ててきた…僕の家族からの手紙だった。

「エリュティア…!読むな、読まなくて良い」

いち早く察した羽久さんが、僕を制止した。

「令月のときと同じ手管だ。本物じゃない。こいつらは適当なこと言って、令月に魔導適性を与えた振りをしときながら、全然魔導適性なんかなかった。嘘っぱちだ。それと同じだ。その手紙は本物の…お前の家族からの手紙じゃない」

…嘘っぱち…。

分かってる。僕の家族は、今更僕に手紙なんて寄越さない。

自分が魔導師になる為に、家族を見捨てた親不孝者の僕なんかに。

でも、それでも…。

「読まずにはいられないよね?それが君の、心の弱いところだから。偽物だと分かっていても、無視することは出来ないんだ」

青い小人が、そう言ってせせら笑った。

…さすが、よく分かってるね。

その通りだ。

僕はおもむろに封を開け、中に入っていた便箋を取り出した。
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