神殺しのクロノスタシスⅣ
しかし。

「うーん…。あと少しなんだけどなー…」

僕と契約した青小人は、不満げに小瓶を見つめていた。

あの忌々しい小瓶が、青い液体でいっぱいになれば、僕も解放されるんだろうけど…。

生憎僕の悲しみの小瓶には、青い液体が八分目ほど。

いっぱいになるには、もう少しかかりそうだ。

あるいは、もっと大きな悲しみが、突如として襲いかかってくるようなことがあれば…。

「なかなかいっぱいにならないなぁ。怒りの小人は契約を終えたのに、僕だけ残るのは嫌だなー」

と、不満顔。

それは僕の台詞だよ…。

「君は何に悲しみを感じるの?何が一番辛い?」

そんな面と向かって聞かれても。

返答に困るよ。

「おい、お前もいい加減にしろよ」

羽久さんが、僕の代わりに小人を怒ってくれた。

「何が、一番辛い?だ。ぶん殴られたくなかったら、二度とそんな下衆なこと聞くな」

と、羽久さんが言っても。

青小人は素知らぬ顔。

なかなか、癪に障る顔をしてるよ。

「ふん。小瓶がいっぱいにならないってことは、まだまだ悲しみが足りないんだ。もっと大きな悲しみに襲われなきゃ、君は悲しみを感じないんだ」

「…」

「肉体的な痛みでは、それほど悲しくならないんだね?君は…」

それは…。

肉体的な痛みなら…余程の怪我でもない限りは耐えられるから。

でも。

「じゃあ、精神的に傷つけてみたらどうかな」

「あ、こら、お前っ!」

と、羽久さんが止めようとしたが。

遅かった。

僕の指に巻かれた茨の指輪が、僕にとって一番「痛い」ところを、読み取った。

にやりと青小人が笑い、その笑顔にゾッとした。

すると、そのとき。

「失礼しますよ。エリュティアさんはいらっしゃいますか?」

イーニシュフェルト魔導学院の教員、イレースさんが、学院長室にやって来た。

片手に、一通の手紙を持って。
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