神殺しのクロノスタシスⅣ
「…は?」

「これで満足した?」

真っ二つに引き裂いた便箋を、更に細かく千切る。

「満足したよね?瓶がいっぱいになった。…これで、僕の悲しみはおしまい」

契約も、これで終了だ。

七日間の期限を待たずして。

…これを狙っていた。

「な、何だよ…。さっきまで、あんなに…」

狼狽える青小人に、僕は笑顔で言った。

「悲しんでるように見えた?確かに悲しんではいたよ…。君の思惑通りにね。こうやって君の思い通り悲しんであげたら、早く契約を終わらせてくれると思ったから」

案の定だった。

家族からの手紙っていうのは、なかなか良い線を行っていた。
 
お陰で、あっと言う間に小瓶がいっぱいになった。

「クュルナさんも契約終了したことだし、僕だけ七日間だらだら長引かせるのも嫌だった。だから悲しんであげたんだよ」

「…!」

まんまと嵌められたと気づいて、今更狼狽える小人だが。

残念ながら、いや、幸いと言うべきか。

悲しみの小瓶は、既に満タンだ。

「つ、強がりを…。悲しんでいたのは本当の癖にっ…」

「うん、悲しんだよ。だからもうおしまいね。君達が、僕達を傷つけるのもおしまい」

怒りと、悲しみはおしまい。

そんな嫌な感情は、人に教わるものじゃない。

「確かに僕は悲しんだ。でも…その悲しみに溺れて、二度と立ち上がれなくなるほど…弱くもないからね」

舐めてもらっては困る。

これでも僕は、聖魔騎士団魔導部隊大隊長だから。

七日後に迫る死も、度重なる不幸と不運、そして悲しみの試練も。

乗り越えるよ。ちゃんとね。

「…ふんっ…。良いさ。『悲しみ』はちゃんと教えてもらったんだから…。もうこれ以上、用なんてない!」

青小人は、いまいち決まらない捨て台詞を吐いて。

小瓶を大事そうに抱えたまま、棺桶の中に逃げ帰った。

そのとき既に、僕の指から茨の指輪が消えていた。
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