神殺しのクロノスタシスⅣ
「何で叩くの?」

「当たり前だろ。ひったくりと同じじゃないか!」

「ひったくってないよ。酔っ払ってるおじさんに、軽くぶつかる振りして抜き取っただけで…」

スリの常套手段。

こいつ…さては常習犯か?

「いつもなら、スる代わりに、懐にナイフを突き刺してたから。それと同じ要領で」

やっぱり常習犯だった。

くそ…。育ちが悪過ぎるぞ…。

「何でこんなもの、わざわざ取ってきたんだ?」

「学院長達が欲しがってたから。持ってこようと思って」

お前ら、昨日の俺達の会話、聞いてたのかよ。

抜け出し過ぎだろ。何処で聞いてた?また天井裏か?

くそ、今度天井裏に、ネズミ捕りか何か仕込んでおいてやる。

それにしても、聖魔騎士団が苦労してようやく手に入れた、この裏社会の新聞を。

たった一晩で、お使い感覚で掠め取ってくるとは。

さすが、長い間夜の闇の中に住んでいた、裏社会の元暗殺者と言ったところか。

聖魔騎士団の皆さん、泣いてるぞ今頃。

「それに、これ危ない、悪いものなんでしょ?他の人の手に渡すより、僕らで持ってた方が良いんじゃないの?」

「それは…そうかもしれないが…」

なんか、上手く丸め込まれようとしてるが…。

それでも、人様の持ってるものを勝手に奪うのは、窃盗という立派な犯罪だからな?

多分、盗られた方は、盗られたことを自覚してないだろうな。

酔っ払ってたって言ってたし、おまけに、この令月。

俺達よりずっと小柄で、ぽやんとした顔してる癖に。

「仕事」をするときは、恐ろしく冷静で、気配というものがが全くなく、そして俊敏だ。

おまけにこいつらの仕事着は、この闇に溶けるような黒装束。

夜の闇に紛れて、一瞬でも姿を見失えば、それで終わりだ。

勿論盗られた方は、令月の顔も、盗られたことも、覚えていないだろう。

自宅に帰って酔いが覚めて、鞄の中を見て、ようやく「あれ?」と気がつくのが関の山。

しかし気づいたとしても、そのときにはもう令月の足跡を追うのは不可能だ。

令月もすぐりも、いかなるときでも「仕事」の痕跡は、一切残さないのだから。

それに。

新聞の持ち主も、令月の言った通り、酔っ払ってるときに新聞をもらったんだとしたら。

何なら、自分が新聞をもらったことさえ、覚えていないかもしれない。

…と、言うか。

「何で、そのおっさんが新聞を持ってることを知ってたんだ?」

まさか、手当たり次第にスリをしていた訳じゃあるまい?

「配布されてるところを見たのか?」

「ううん。『八千歳』が教えてくれた」

…すぐりが?
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