神殺しのクロノスタシスⅣ
イーニシュフェルト魔導学院、オープンスクールのその日。

俺達教師陣は、朝から忙しくしていた。

「こっちがミルクチョコ、こっちがホワイトチョコ、こっちがストロベリーチョコ…よしっ、完璧!」

来場者に配布する為、大量のチョコレート菓子を、大量のシルナ分身が小分けにしてラッピング。

その才能、別のところに活かせんのか。

他にやるべきことあるだろ。

お前体験授業担当なんだぞ。覚えてるんだろうな。

まぁ、毎年のことなので大丈夫だろう。

そして。

「あぁ、忙しい忙しい。猫の手でも良いから借りたいですね」

いつもテキパキと忙しそうなイレースは、今日も一段と忙しそう。

説明会で配る資料、入試関連資料、学院案内図など、その他様々な資料を仕分けている。

何なら、あの資料、作成したのもイレースだからな。

いつもお前の働きには助けられてるよ。

すると。

「あの、僕で良かったら手伝うよ」

イレースが、猫の手でも良いから借りたい、と言っているのを聞いて。

天音が率先して、手伝いを申し出た。

偉い。

「そうですか。では遠慮なく…はい」

「うっ」

イレースは、仕分け終えた大量の資料のタワーを、天音に手渡した。

ズシッ、って効果音聞こえたよ今。

「それを、説明会会場まで運んでください」

さすがイレース。容赦ねぇ。

「わ、分かった。が、頑張る…」

天音は、ふらふらしながら紙の束を抱え、会場となる講堂に向かった。

だ、大丈夫か?

俺も俺で準備があるから、手伝ってやれないのが申し訳ないが。

しかし。

「…お前は何やってんの?」

「え?ちょっと前髪整えてます」

何故か、オープンスクール当日の朝に、はさみ片手に前髪の散髪に勤しむ者がいた。

誰あろう、我がイーニシュフェルト魔導学院の読心魔法教師である。

何をやってんだ、本当に。

何で今?

「だってほら、僕、今日体験実技授業の担当でしょう?」

「そうだけど…」

普段から、実技授業担当が多いナジュは。

今日のオープンスクールでも、体験実技授業の担当になった。

以前までは、実技授業の体験まではやっていなかったのだが。

イーニシュフェルトの教師陣も、段々増えてきたし。

まぁ、こっちの話だが、無駄にイケメンなナジュが体験授業してくれたら。

「こんな先生がいるなら、イーニシュフェルトに入りたい!」って思ってくれる生徒も、いるかもしれない。

イレースに言わせれば、そんな不純な動機で受験するなんてとんでもない、らしいが。

今日日、制服一つでさえ、学校選びの基準になり得る時代だからな。

イーニシュフェルト魔導学院だって、自分達は名門校だと思ってうかうかしていると。

今の若い子達は、別の魔導師養成校に流れていってしまうかもしれない。

学院としては、当然そのような状況は避けたい。

折角、うちにはイケメンカリスマ教師(自称)がいるんだからな。

ちょっと、そういうところもアピールしていこうかな、という試みである。
< 97 / 795 >

この作品をシェア

pagetop