陰謀のための結婚
彼は、整った顔立ちを崩して微笑んだ。
「俺は城崎智史。声まで素敵だ。"智史"と俺を呼んでみてくれないか」
突然のリクエストに首を傾げつつも、言われた通り口を動かす。
「智史、さん?」
ただ名前を呼んだだけなのに、彼は目を丸くして口元に片手を当てると、視線を逸らして言った。
「参ったな。会って数秒で囚われてしまいそうだ。政略結婚なんてやめようって言うつもりだったのに」
最後の一文に胸が詰まる。彼は御曹司だが、とても常識人だと思った。いまどき政略結婚なんて時代錯誤だし、そもそもこれは陰謀が絡んでいる。
もっと悪い人だったら、よかったのに。
これでまた当分、母の手術をしてあげられない。無念に思いながらも、どこか安堵していた。