陰謀のための結婚

「お忙しそうですね」

「ああ、城崎リゾートは、ある温泉地の再開発を進めていてね。具体的な場所を今は明かせないが、国や地域を巻き込んだ大きなプロジェクトだ」

 智史さんは目を輝かせて話す。

「ホテルだけで完結しない、地域全てが活性化するシステムを作りたい」

「素敵ですね」

 仕事の話をする彼はまぶしい。彼はやはり城崎リゾートの御曹司で、自分との立場の違いを感じた。けれど、彼は目を細めて言う。

「これは、香澄ちゃんが一緒に旅行に行ってくれたからだ。俺だけでは、今回のプロジェクトは任されていなかったよ」

「私はなにも」

 心苦しくて彼から視線を逸らしても、智史さんは続けて言う。

「前に香澄ちゃんと行った、城崎温泉街を参考にたたき台を作ったんだ。あの旅行はとてもいい収穫だった。ありがとう」

 まるで私のおかげとでも言わんばかりの言い方に、ますます彼の顔が見られない。
< 153 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop